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覚悟
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朝起きても、仲影が隣にいないことに少し落胆を覚える。机の上には着替えと薬が置かれていた。
仲影が調合させたらしい丸薬を水と一緒に飲み込む。独特の薬臭さはあるが、さしてまずいというほどでもない。
確かに、この薬を服用し始めてきちんと書物を読む時間に制限を設けてから、随分目は楽になったように思う。常人の目に比べれば、私の目は随分疲れやすいらしい。
それでも、数十日前までは見えていたものが、少しずつぼやけて行くことには恐怖を覚える。少しずつではあるが、症状は進行しているらしい。
眠る前に仲影が琵琶を弾いていたのはここまで聞こえてきたから知っている。睡眠が十分とれていないことを知って私を一人にしたのだと思うが、どうも寝付けなかった。随分と、あの温もりに依存していたらしい。
仲影は静かにだが、この間の管瑯とかいう男からの要請の件について、調べさせているらしい。私が不安を見せていたからか、仲影はもう管瑯は部屋に入れないと言ってくれたが、それではいけない気がする。
私は仲影に囲われ、庇護され、寵愛を受けている。自惚れかもしれないが、現在の仲影の最大の弱点はおそらく私だ。
私も、なにか力が欲しい。仲影の隣に、魔王と畏れられる人の隣に寄り添う者としての覚悟をいずれ問われることがあるのではなかろうか。
「伯岐?入るよ」
扉を叩かれ、仲影が入ってくる。机の上を一瞥し私が薬を飲んだことを確認すると、満足そうに笑った。私の方に歩み寄って、抱擁と額に軽い口付けをくれた。
「ちゃんと飲んだみたいだね。偉いよ、伯岐」
「ふふ……」
褒められることと暖かい体温が心地よくて、思わず笑みが零れた。ふと真剣な表情に戻った仲影に、なにかあったのかとこちらも真顔になる。
「管瑯の件とも関連はあるみたいなんだけど、嫌な情報を掴んだんだ」
仲影の顔はいつになく曇っていた。信じられないというか、信じたくないというか、そんな雰囲気ではある。
「私には父と兄がいてね、芸術が大嫌いで現実主義の嫌な人だった。……私は機を見て、賊を雇い二人を始末させた。そのはずだったんだ」
怯える仲影がとても珍しい。本当に、本当に大嫌いな人だったに違いない。どうしてなのかはそれ以外に何か理由もありそうな気はするが、まだ聞いてはいけないような気もする。しかしこの口ぶりだと、まるで……。
「生きていた、のですか」
「……ああ。治療に来ていたのを見たものがいるそうだ。左足は、義足らしい」
ため息をついた仲影に、私の方から抱きついた。
「仲影は、一人で、父君、兄君とたたかったのでしょう?……今度は、私がいますから」
「……ああ。ありがとう、伯岐」
今のあなたは一人じゃない。食客もみなあなたという人間に惚れているし、私だってそばにいる。今までずっと、支えられて囲われて大切にされてきたのだ。
私だって男だ。囲われているだけでは矜恃が傷つく。仲影は望まないかもしれないが、私も仲影の役に立ちたい。
強く抱き締められた。……全く、私の前で君子然としていようと取り繕っているのは見え見えなのだ。本当は、もっと我儘で気紛れで冷酷な、独占欲が強い人であるはずなのに。
……私はいつか、仲影の本当の性格を隠すことなく見せてもらえるような、仲影を支えられる、なくてはならない男になりたい。
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