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傍華
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伯岐の言葉に、随分驚いた。この子は、ただ儚く美しいだけの子供ではない。その眼に宿るものはとてもしっかりとしている。まだ愛でるべき子供だと思っていたが、きっとそれでは伯岐の矜持を傷つけてしまうことになる。
「伯岐。ごめんね、有難う」
「私は仲影の役に立ちたいのです。守られるだけでは嫌なのです」
今はまだ蕾ではあるが、いずれきっと美しく咲く大輪の牡丹の花。伯岐にはそんな形容がふさわしい。守るだけでは、この花はひっそりと咲き、静かにくずれるだけ。傍らにあるからこそきっと美しく咲き誇る。
「君は十分に役に立っているよ。保障する」
「詩人としてですか、愛人としてですか。それは絶対に必要なものではないのではないではありませんか。そうではないのです。私はあなたを守りたいし、あなたの支えになりたい」
忘れがちではあるが、伯岐にはその眼にかなわなければ王をも手にかけるような、代々王のもとで叛逆者を闇に葬ってきた凶手の血が流れている。現実主義で冷徹で一度主と認めたものには絶対の忠誠を誓う凶手の血が、徐々に目覚めているのかもしれない。
……私も少々考えを改めなければいけないだろう。伯岐が私を支えられる存在になることを望むのなら。しかしそれは同時に恋人としての関係を脅かすことになるのではなかろうか。私は何よりも強く、伯岐と恋人としていたいのだ。
「もとより私はあなたに買い取られたもの。こんな我儘は許されないとは思っています。私を愛人として大切にしたいと思ってくれているのもわかっています。それを嬉しく思ってもいます。でも……それだけじゃあ、駄目なんです……」
「伯岐……」
しかし、それでは駄目なのだ。伯岐が納得できていない。ただ女子供のように愛され、詩人として珍重されるだけでは、男であるという己の自我を否定されているように感じるのだろう。その変化を嬉しく思いつつも同時に寂しくも思う。
何が急に伯岐にこんな変化をもたらしたのであろうか。私が影響しているのは間違いない。しかしそれだけでは説明できない気がする。
無垢なままでいてほしかった。私の腕の中でただ甘えて欲しかった。血で穢れて欲しくはなかった。けれど、伯岐が望むのならそれもいい。伯岐は私にふさわしい男に、魔王の傍らで咲くに相応しい華に生まれ変わろうとしているのだ。
「……伯岐」
「っ……!?」
今まで伯岐には見せていなかった、ごろつきたちを手足のように使い、退屈晴らしに他の家を滅ぼし店を潰し、人命すら玩具のように扱ってきた、私の負の面をさらけ出す。管瑯が訪れた時には少し伯岐に配慮していたが、今回はそんなものはない。
一瞬伯岐は怯んだが、すぐに普段とはどこか違う、艶めかしい笑みを浮かべ私の腕の中に飛び込んでくる。うっとりと私を見つめるそれはまさに被支配者の顔。どうやら伯岐には被虐の趣向もあるらしい。思わず口角が上がった。
「しようか、伯岐」
「……あなたの望むままに」
唇を合わせて互いを奪い合い、寝台に縺れ込んだ。何か、今までのどろどろに溶けるような甘いもの以外を期待するような瞳に苦笑する。
たまには思い切り虐めてやるのも、楽しいかもしれない。
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