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鴉翼
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「で、今伯岐は勉強中なんだ」
伯岐の邪魔になるといけないと離れから書斎に戻ったものの、暇を持て余した私は久しぶりに養っている食客たちのところに来ていた。
闇医者だが腕は王都いちという黄幼岱という男に私は頭を下げた。最初は渋っていたのだが、伯岐を見せた途端に態度がかわった。何かを感じ取ったのか、是非教えさせて欲しい、と言ってきたのだ。この、なにか人を惹きつける魅力は伯岐の最大の武器だろう。
「へぇ、あの儚げな血雲殿が、ですか……」
「あの子はそれだけじゃないよ。私を守りたいと言ってくれた」
「全くまあ熱いことだ」
呆れたように言う長義は何か図案を考えているようだった。ひょいとそれを覗き込むとそれは黒い翼を図案化しているもののようだ。
「血雲殿に頼まれたのだ。彫り物の図案を考えてくれ、と。黒い翼がいいと言われてな……」
「彫り物……?」
「ああ。背中にいれたいと言っていたが……聞いていないのか?」
「初耳だ」
「おい長義、血雲殿に内密にするように頼まれていただろうが……」
あの日想像の中で見た伯岐は、これを暗示していたのであろうか。生き物のようにあの伯岐の白い肌を這う翼はきっと美しい。
叔成にたしなめられた長義は納得いかぬように反論する。
「吾は思うのだ。内密にしたところでいずれ彫り物を入れる前に暴露るのだ。ならばいっそ、今言ってしまったほうがいいのではないのか?」
「伯岐は、なんのために……?」
「庇護されるだけのものから生まれ変わる、自分のけじめだ、と言っていたよ」
「けじめ、か……」
今の伯岐は私が反論したところできっと納得するまい。自分にとってのけじめのつもりならば、私は何も言わない。……長義の翼の図案は未完成ながらとても見事なものだ。
本当に、伯岐は生まれかわるつもりなのだろう。私に相応しい、私の隣で艶やかに咲き誇る大輪の花に。
覗いた限りでは、伯岐はとても真面目に学問に取り組んでいて、あの医者を質問責めにしていた。もともとが頭のいい子だ、きっと学べば大成する。
それもすべて、私のためなのだと思うとどうも口角が上がるのが抑えられない。伯岐の全ては私に向いている、その事実がとてつもない優越感を生んでいる。
「で、鄭大人、血雲殿がきちんと言ってきたら、止めるのか?止めると言っても吾はきちんと完成させるが」
「……止めないよ。私も見てみたい。その翼を背中に纏う伯岐の姿を、ね」
「吾らから聞いたということは……」
「大丈夫、言わないよ。君たちも伯岐に嫌われたくはないだろう?」
「うむ、嫌われたくはないな」
「……まあおそらく、拗ねるだけだろうけどね」
笑ってみせると長義は安堵したように胸を撫で下ろしている。
持ってきてはいたものの全く手をつけていなかった菓子を頬張りながら、長義が図案を仕上げて行くのをただただ見ていた。
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