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暗流
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悩んだ末出した答えは、兄との会見だった。なんとかつかんだ兄の居場所に書簡を届けさせた。遅くなく帰ってきた返信にはその場所が記載させていた。念のため子珱を連れて行き、邸も私兵の数を増やした。
そんなことはないと思うが、一応襲撃にも備えなければいけない。流石にそのままあれと瑶元をやられては後味が悪いし、食客たちを危険に晒すのも腹が立つ。
がたがたと揺れる馬車の中で、子珱は隣で真剣に得物の手入れをしていた。よくこの馬車のなかでできるものだと感心する。終わったのか、鞘にしまうと溜息をつく。
「緊張しているかい?」
「人の事を心配している場合じゃないでしょうに」
……随分、その観察眼は鋭いようだ。私の不安を見抜いたするどい金の眼は、妖魔の血を引く異質なものでその艶やかな黒髪にはあまり似合わない。李家の中でも特に妖魔の血が顕著にあらわれているのが李子珱という男らしい。動物的な勘や観察眼はそのせいなのかもしれない。
馬車が止まり、御者が到着を告げる。窓の覆いをめくって外を見てみれば、そこには廃墟があった。昔は繁栄していたのであろう貴族の邸といった風体だ。剥がれた塗装が地面を朱くそめている。
「……行こう、子珱」
「はい」
子珱に先に降りてもらい、安全を確認してもらう。その危険に対する嗅覚はおそらくとても鋭いものなのだろう。子珱が頷いたので私も降り、雑草と剥がれた塗装を踏みしめた。
ゆっくりと、歩く。後ろから子珱がついてきている。室内に入ると、中は思った以上に整備されていた。……確かにここに、兄がいるらしい。
「ようこそ、仲影殿。……兄君がお待ちだ」
「伯修殿……」
にこにこと笑って私たちを出迎えたのは、伯岐の父親で、伯岐を私を売りとばした男だった。なぜこの男があちら側についているのだろう。伯岐の事を考えれば、あまり得策ではない気がするのだが。……同時に理解した。この男が、伯岐を攫った賊の一人だ。
「大丈夫、ちゃんと命はある。けど、無事かどうかは見てもらわないとわからないだろうね」
「どういうことだ」
「見てのお楽しみだよ……さ、案内しよう。ついてきてくれるかな」
くすりと笑う伯修殿に薄ら寒さを感じた。案内されるままに、廊下を歩く。
質素な飾りを施された大きな扉の前で、伯修殿は立ち止った。この奥に、兄上がいるのだろう。子珱をちらりとのぞき見ると、緊張した面持ちをしていた。
「伯陽殿、客人だ」
「……通せ」
そして、扉が開かれた。
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