アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
死活
-
次の連絡は十日もしないうちに届いた。場所はこの間の廃墟で待っている、らしい。指定された日に子珱とともにまた廃墟を訪れた。
馬車を降りると、この間と同じように、伯修殿が待っていた。この間よりも、なんというか、淀んだ雰囲気を感じられる。やはり、伯修殿はなにかおかしい。
「よく来たね。彼が待っている」
「……伯修殿」
「何かな?」
「伯岐を手に入れてみて、どうだった」
「さあ、どうだったと思う?」
くすくすと笑って煙に巻く伯修殿が恐ろしい。一番警戒すべきはこの男なのかもしれない。その柔和な笑みの裏には一体何が隠されているのだろうか。それが、一切わからないのだ。
伯修殿について歩く。またあの広間に案内された。扉を開かれ、目隠しをされた伯岐が兄の膝を枕にして横たわっている。そして、見た事のない男がそばに控えていた。漆黒の長髪に隻眼の、見たことがないくらいの殺気を漂わせる男。腰に帯びた剣がまた、禍々しい雰囲気を放っている。
あれがあの時兄が言っていた、子珱の相手、なのだろうか。
「ちゃんと来たのだな、良よ」
「伯岐を、返してもらわなければいけませんから」
「だろうな。流血沙汰はあまり好まないから、これで決着をつけようか」
兄が男に目配せすると、男は頷いて机の上に碁盤を置いた。碁で、決着をつけようというのか。子珱をちらりと見遣る。その視線はじっくりと碁盤に注がれていた。
「子珱、碁はするのかい?」
「……それなりに」
碁笥を置こうとする男に、兄が声をかけた。
「狂剣、こちらが黒だ」
「……わかった」
「お前は私に挑んでいるんだ。異存はないだろう?」
「……はい」
白の碁石の入った碁笥が子珱の目の前に置かれる。そして、狂剣と呼ばれた男が子珱の目の前に座った。黒と白を二子ずつ置いてから、黒の、先手の狂剣がまず碁石を碁盤に置いた。
子珱の視線が鋭くなる。今まで見た事のないような顔だった。
静かに、碁石が碁盤を埋めていく。私も少しはやる方だからある程度今どちらが優勢かということくらいはわかる。狂剣のほうがわずかにだが、優勢に見えた。余裕の表情を見せる狂剣に、子珱も決して焦ってはいない。
「良よ、まったく、お前はどうしてこうも私を苛立たせるのか。だまって私のものになってしまえばよかったというのに」
「そういうあなただから、嫌なんです、兄上」
「まあ、いい。その男、李家の男なのだろう?流石に、狂剣でも相手が面倒になりそうだからな、平和的に解決しようと思ったわけだ」
「……そんなことだろうと思いました」
既に、子珱のことも調べつくしたらしい。李家に流れる妖魔の血。どんなふうに目覚めるのか、彼自身にもわかっていないのだろう。ちら、と碁盤を見遣る。見事に、狂剣の優勢はひっくり返されていた。圧倒的な子珱の優勢。碁の才能もあったのか、と驚いて子珱の顔を見る。視線に気づいたのか、子珱はこちらを見て自信ありげににやりと笑った。
これは帰ったら瑶元と一局打ってもらわねばならないだろう。
狂剣は無表情を崩さなかった。子珱の手番になり、白の碁石が決定的な位置に置かれた。碁盤を全体的に眺めた狂剣は、静かに頭を垂れた。
「……参った」
兄の表情は狂剣が投了したにも関わらず、変わらず至極楽しそうで、伯岐の頭を撫でてから、一気に目隠しを取り去った。伯岐の身体がびくんと跳ね、慌てて兄の膝から顔をあげ距離を取る。
「仲影!」
そして、私のもとに駆け寄る伯岐を、兄は笑うばかりで一切止めもしなかった。抱きついてくる伯岐はぐすりと、嗚咽を漏らした。震える背をそっと撫でてやる。
「これで、気は済みましたか、兄上」
「十分だ。いい暇つぶしになったよ、良。ここのところ、ずっと調べていたが……お前が既にこの子のものだというのがありありとわかって、興醒めしていたんだ。だが、そのまま返すのも癪だからな。どうだ?良、私はいい役者になれるだろう?」
やはり変わった兄だ。私を抱くまでしたというのに、他人のものになったとたんに興味を失くしてしまうなどとは。あくどい笑みを浮かべる兄に私は愛想笑いしか浮かばない。
抱き締めると、安心したのか伯岐はやっと笑みを見せてくれた。
「さて、さっさと失せろ。もう私はお前に執着はしないさ」
「言われなくても。……帰ろう、伯岐、子珱」
頷いた二人と一緒に外まで歩く。なぜか、伯修殿は見送りには来なかった。外に出て、待たせた馬車に乗り込む。馬車の中でも、伯岐は私にぎゅっと抱きついて離れようとしなかった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
53 / 68