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忘憂
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「それでは、二人を祝って、乾杯!」
瑶元と蓮珠の内縁の、本当の身内だけの婚儀の席で乾杯の音頭をとる。
静まり返っていたのが一気に騒がしくなる。食客たちだけで五十人はいるのだ。くるりと周りを見渡す。騒ぐ皆の中で、長義だけは固くなって上段にちんまりと座る二人を観察しながら筆を走らせていた。
気になって近くに寄って長義の手元を覗き込む。軽く下描きをしているようだ。見上げた長義は私を見てにっこりと笑う。
「二人のためにもなにか記念くらい残しておくべきだとは思わないか?」
「そうだね……表には出せないけど、それでもいいのかい?」
「鄭大人には表に出して評価されるために吾が絵を描いているように見えるかね?」
「そうならとっくの昔に売れっ子だろうね……」
「ふふっ、そうだろうそうだろう」
嬉しそうに返す長義の手は止まっていなかった。あっという間に随分男前に描かれた瑶元と美人画を得意とする長義らしい蓮珠の下書きができあがっていく。ある程度満足いくものができたのか、長義は筆を置いてその下絵を汚さないように一旦部屋に戻って行った。
伯岐を眺めると、楽しそうに並べられた料理を食べていた。叔成が隣で談笑していることに少し胸の中にもやがかかる。
「伯岐、楽しいかい?」
「はい、仲影、とっても…!お二人も、幸せそうですし」
「おっと、俺はお邪魔虫ですね、それじゃあ失礼して…長義がどこに行ったか知りませんか?」
「部屋に下絵を置きに行ったからあまり遅くなく帰ってくると思うよ」
さすがに叔成は察しがいい。私が気分を害していることを知ってかさっと伯岐の隣の席を空けてくれた。伯岐の隣に腰を下ろし、抱き寄せた。しかし抵抗せず、されるがままに抱き締められている。体温と寄りかかる重みを感じて愛おしさが心に満ちていく。さっきまでのもやが掻き消されていく。自分でも単純なものだとは思う。
「仲影」
「……どうした?」
「本当に、私が隣にいてもいいのですよね?仲影に愛してもらって、いいのですよね?」
不安げに私を見つめる伯岐は二人の睦まじい様子と、瑶元にかけられた言葉を未だに引きずっているようだった。同性同士、確かに世間で言えば大きな壁ではあるが私と伯岐を隔てるには低く脆すぎる壁だ。
「私には、君しか考えられないんだ。伯岐。心から愛したいと思ったのは君だけだ。だから、何の心配もいらない。それでも、どうしても心配になるのなら、私の隣にあるにふさわしい男になることを努力するといい」
「……はい。もっともっと努力して、あなたの隣にあるに相応しい男になりたいです」
「ふふっ、伯岐はいい子だね」
愛おしさが溢れてとまらない。素直で一途な伯岐は食べてしまいたいほど可愛い。欲望がむくむくと頭をもたげる。そっと伯岐を抱き締めた。別に私がいなくなったところで主役がいなくなるわけではないのだから。
「伯岐。……抜け出そうか。いい子の伯岐にご褒美をあげよう」
「ご褒美……ですか」
うっとりと私の言葉を反芻する伯岐に笑いかける。すぐに私の意図に気付いたのか伯岐は頬を染めて小さく頷いた。その額にそっと唇をおとす。
結局、あのあと抱かれた痕跡を確認するだけで、行為には及んでいないのだ。久しぶりに伯岐を可愛がり尽くしたい。
そっと伯岐の手を引き外に出て扉を閉める。ぱたりという音とともに喧騒から隔絶される。外は静かで少しばかり寒くなってきたようだ。向かう先は離れにある伯岐の部屋だ。今日はこれから、存分に伯岐を堪能しよう。
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