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燕私
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「あー、だいぶ視力が落ちてるな……嬢ちゃん、一体どうしたんだ?」
私をじっと見ながら、黄老師は首をひねった。前に診察を受けた時にはもう少し、見えていたはずなのだが。急激な視力の低下の原因が黄老師にもわからないらしい。診察の時につけている日誌にはいろいろな可能性が書き込まれていたが、それの一つ一つを消していっているらしい。
「仲影殿を呼んでくれるか?ちっとばかし話がしたいんだが」
「はい」
使用人に仲影を呼んでくれるように頼むと、黄老師は深く溜息をついた。診察日誌を閉じると、私の頭を乱暴に撫でる。一体、何を確信したのだろうか。首をひねる私に心配はいらない、と言ってはくれたが何かしら黄老師一人ではどうにもできないこと、なのだろう。
やがて少し早めの足音が聞こえてきて、仲影が入ってきた。椅子に座り、黄老師を真剣な目で見つめている。
「黄医師、一体どうしたのかな」
「仲影殿は、腕のいい呪術師を知ってるか?……嬢ちゃんの視力がいきなり低下したのは、呪詛のせいかもしれない。俺には原因がわからんのだ。だから、そっちの方面で一度調べてみるのがいい。……それで患者をなくしたこともあったからな、用心に越したことはない」
「そうだね、腕のいい人は知っているから、早めに招いて調べてもらおう」
あの時、私に符水をくれた季丹殿のことだろうか。しかし、なぜ私に呪詛などかけられなければいけないのだろう。それに、視力以外には何の異常もきたしていないのだ。それが不思議で仕方ない。
そもそも、呪詛をかける機会などあったのだろうか。仲影が運び込んでくれた文献で少し読んだが、大概呪詛というものには相手の身体の一部が必要であるらしい。使用人に袖の下を渡すか、私が拐かされた時に……ということくらいしか考え付かない。しかし、解放してなお、呪詛を行うだろうか。
「もし呪詛だとしたら、狙いは私を苦しめる事なのだろう。伯岐が恨みを買っているとは考えにくい。もしそうなら……いや、あの家の連中にそんな敏いのはいなかったはずだ」
「蓮珠さんの、家、ですか…?」
「ああ。だが探らせている限り、まだばれているとは思えない」
誰だか知らないが面倒事を増やしてくれる、そう冷たく呟いた仲影の顔は普段魔王と呼ばれているそれだった。その横顔に心がざわつく。なぜこんなに仲影は私の心を揺さぶるのだろう。
「伯岐、どうしたのかな」
「あ、その、ええと……」
まさかそんなことを仲影に言えるわけもなく、私は言いよどむ。黄医師は訳知り顔で、仲影はすべてお見通しといった笑みでにやりと笑った。
「さて、では俺はそろそろお暇しようか。その目じゃ勉強どころじゃねえだろ。……ま、運動もほどほどにな?」
「ああ、ありがとう、黄医師。またよろしく」
私を後ろから抱き締めて、仲影はにこやかに言う。黄老師を二人で見送った。扉が閉まった途端、仲影は私の顔を指でそっと仲影のほうに向ける。妖艶で嗜虐的な笑みを浮かべていて、背筋がぞくりとするものを感じる。
「だめじゃないか、黄医師にまでそんな顔を見せては」
「それ、は……」
「お仕置きが必要かな?」
甘すぎるお仕置きに、私はただうるんだ目を仲影に向けるしかない。思い切り抱きすくめられ、知覚する感覚が仲影で埋め尽くされる。頭が一杯になる。
「仲影……」
「まあ、体調がよくないのだから、あまり無理をさせるわけにはいかないかな」
くすくすと笑いながら背を撫でられる。本当に愛されて、大切にされているのだと心の底から思う。
「干し葡萄が届いたのだけれど、食べるかい?目にも良いらしいね」
「はい…!」
そしていつものように、甘いものを二人で食べて、幸せな気分になるのだ。
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