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穹窒
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「三流で青二才の術師の仕業だな、これは。呪詛自体はそれなりに強いが、返された時の事を全く考えていないどのつく阿呆だ」
私に与えられた部屋を一瞥して、季丹殿はそう吐き捨てた。仲影も険しい顔で部屋を見渡している。
「で、私たちにできることは何かあるかい?」
「そうだな。符を貼って結界を作り出すから今宵は部屋の中から出ないでほしい。小生も今日はここで儀式を行うゆえ」
「わかった。あと必要なものはあるかい?」
「水だけ頼んでもいいかね。それ以外は持ってきてある」
使用人に水を持ってくるように頼み、仲影は腕組みをする。季丹殿は机の上に符などの呪術道具を広げていた。ふと仲影のほうを見ると、私の視線に気づいたのかにっこりと笑って優しく抱き締めてくれた。背中を撫でられ、その心地よさに目を細める。仲影の笑みが深くなった。
「可愛いね、伯岐」
「全く、御馳走様だなぁ……」
そんな声が聞こえてきてあわてて仲影から距離をとる。至極残念そうな仲影とにやにやと楽しそうに笑う季丹殿に、私の頬はかっと熱くなった。術の用意をしながら不意に季丹殿はそっぽを向く。その隙にと言わんばかりに仲影の手が伸びてきて、私の身体を包み込む。こうなったら離してくれないのはもうわかっているのでおとなしく仲影の体温を味わうことにした。
「……まあまあ、小生は貴公たちがよろしくやっていてくれて構わんのだがね。血雲殿が気にするだろう?」
「季丹殿」
「ははは、すまんすまん」
朗らかに笑って見せる季丹殿は支度を終えたのか、手を止めた。その眼はとても真剣なもので、この人の本当の姿を見せてくれた。普段は軽口ばかりだが、実際は王の呪術師という、超一流の腕を持った呪術師なのだという。確かに、私は二度符水を飲んだがそのどちらも季丹殿の用意したものだったらしい。
呪詛を行ったほうは季丹殿からすれば三流かもしれないが、普通に腕のいい者だったのかもしれない。
「さて、始めようか。仲影殿、符を部屋の四方に貼ってくれるかね」
「ああ、わかった」
仲影が部屋の四隅に符を貼る。季丹殿はまだ、悠然と構えていた。少し、眼の奥の重さが和らいだ気がした。気がするだけなのか本当にそうなのかは、私にはよくわからないが。
「あとは相手が呪詛を妨害されて返されそうになっていることに気付いて術を強めたら小生が対抗する。それで跳ね返してしまえばおしまいだ。今宵のうちにけりはつく。だから貴公らは安心して二人でよろしくしているといい」
自信ありげににやりと笑って見せた季丹殿。仲影はそれを聞いて頷くと、私を寝台に誘った。まさか……と思って仲影を見上げると大笑いされた。流石の仲影でも、そこまではしないようだ。くすくすと笑う仲影はいつものように服を脱がせることもなく、ただ添い寝をするだけ、ということらしい。
「期待したかい?」
「……意地悪」
そう言うと、なだめるように額に口付けをくれた。それで流されてしまう私も私だとは思うが、それで流されてしまって翻弄されてしまいたいと思う私もいる。
「血雲殿も仲影殿も、ゆっくり休むといい」
「ああ、ありがとう、季丹殿」
仲影に抱きすくめられ、優しい体温の中で私は目を閉じ睡魔に身を任せた。
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