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穆然
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「お師匠……帰りましょうよ……やっぱりやめましょうよー」
俺の袖を引っ張る幼徳。俺は鄭家の邸の前にいた。やはりどこか見覚えがある。一体それが何故なのかはさっぱり覚えていなかったのだが。貴族のほうに畏れられているらしく、貴族の息子である幼徳は怯えているように見える。だが、俺は一芸に秀でるほうだからもしかしたらその鄭家の主人に気に入られることができるかもしれない。そうすれば……最近、大きな貴族の邸では食客を抱えることが流行っているらしい。その一人になることができれば、とりあえず衣食住が確保できる。
「……どこかで実力を見せつけ、食客になる」
「わかってますけど……だからって鄭家の食客じゃなくてもいいじゃないですか……」
邸から出てきた男が、こちらを見て目を見開くのが見えた。俺を知っているのだろうか。つかつかと歩いてきて、俺の肩をがっしりと掴む。そしてじっと俺を見つめる。猛禽のような鋭い瞳。長く高く結い上げた髪。この男もどうも見覚えがある気がするのだが、一体どこで見たのかさっぱり覚えていない。
「何故、こんなところにいる」
「……鄭家は天下に遍く才を持つ者を求めていると聞いた」
「……わかった。取り次ごう」
そういって、男は邸の中に入っていく。門前で待たされていたが、幼徳がそわそわそわそわして正直とても……。
「目障りだ」
「酷いですよ!だって鄭家なんですよ!?勘当されたとはいえ俺白家の人間なんですよ!?」
「動くな。精神統一しろ」
全く、耳元でそうぎゃんぎゃん騒がないでほしいものだ。こんなことで本当に弟子と言っていいのだろうか。早くも破門したくなってくる。まずは心の持ちようから変えてもらわねばならない。傭兵がこんなに感情をあらわにしてはいけないのだ。
弟子にするからにはきちんとどこに出しても恥ずかしくないような男にせねばなるまい。そうでなければ俺の名も傷つく。
やがて、あの男が戻ってきた。顎でしゃくり、ついてこい、と言っている。それに従い歩いてついていくと、その大きな庭には池の上を橋で繋がれた離れがあった。……やはり、どこか見覚えがある。そのまま客間のような、広い部屋に通された。
「その剣は預けてもらおう」
「……用心深いな」
そういうとあの男の目が一層鋭くなった。あまり触れてはいけなかったらしい。仕方なく、剣を預けるとあの男はそれを持って部屋を出ていった。……鄭家当主を呼びに行ったのだろうか。
手持無沙汰でふと横目で幼徳を見ると、かちかちに固まっている。仕方ないだろう。貴族出身である幼徳にとっては魔王と言われるほどに恐ろしい男らしいのだ。……貴族出身でないただの傭兵の俺にはよくわからないが。
「お師匠……」
「情けない」
だがこのくらいで震えているようでは困る。あとでしっかり精神面から鍛え直してやらねばなるまい。
そんなことを考えていると、部屋の扉が開かれた。あれが、鄭家当主だろうか。幼徳が恐ろしさからか、息をのむのが聞こえた。
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