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提案
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鈍い頭の痛みで、私は目を覚ました。隣には仲影が眠っている。部屋の中は酒臭く、また身体には仲影が付けた真新しい所有印がいくつも残っていた。昨日ははじめてだというのに随分飲んでしまって、そのまま火照る身体を重ねたのだろう。あまりよくは覚えていないのだが。
寝台から降りようとすると、手首を掴まれた。そのまま寝台の中に引き戻される。驚いて見ると、仲影がにこやかに笑って私を抱き締めた。
「ふふ、お早う、伯岐」
「おはようございます、仲影」
優しく抱き締められ、腕の中で体温を味わう。頭を撫でられてその心地よさに目を細める。仲影の笑う声が聞こえた。労わるような優しい声が降ってくる。
「粥は食べられるかい?」
「少しは……」
腹はまだふくれているが、少しでも食べた方がいい。そう思い頷くと、仲影は呼び鈴で使用人を呼んだ。なにやら指示を出しているらしい。一礼して使用人が出て行くと、頭を撫でながら私に問うてきた。
「どうだった?…酒というものは」
「とても、楽しかったですけど……飲みすぎたのでしょうか……」
「そうだね、きっと二日酔いだ。こういう時、何を飲めばいいか教わってはいないのかい?」
「……学びました。五苓散を服用するといい、と……」
「その通りだ。持ってこさせるように言っておいたから、あとで飲むといい」
仲影は私を試したかったらしい。五苓散。二日酔いなどに効く薬だ。隗老師から教わって覚えている。日常で使う薬剤を知らずに高度な薬剤を知ろうとするのでは駄目だと、本当に初歩の初歩から教わっている。日常生活の中で毒になってしまうものも、少しずつ教わった。
……いざとなればこれを使えば、仲影を害しようとする輩から仲影を守ることができるだろう。ひとつひとつでは毒性はないが、合わせれば毒になるものも存在し、それは知っている者以外には気づかれにくいという。邸からあまり外に出ることができない私にはよく分からないが、入手もさして大変なものではないらしい。
「……ふふ」
「どうしたんだい?」
ふと笑みが零れ、仲影に訝しがられてしまったがなんでもないと返す。
……体が弱く力のない私でも、仲影を守り仲影を害しようとする輩を傷つける剣になれる。医学と薬学を学ぶようになってからはっきりとそれを自覚した。仲影のためになら、きたない手も使って見せる。絶対に、傷つけさせはしない。今は頼りないなまくらかもしれないが、いつかきっと、命を奪うような名剣になってみせる。自分自身のためにもだ。
仲影を見上げると、何を思ったのか頷いて、まっすぐに私を見る。真剣な視線が私を射抜いた。これはきっととても大切な話なのだろう。居住まいを正す。
「伯岐、ひとつ提案があるんだが」
「……なんでしょうか」
大切な話とはいえ私にはその内容に想像がつかず、仲影のつぎの言葉を待つことしかできない。それをくんでくれたのか、仲影はすぐに口を開いた。
「次の……二年後の、王宮医官の試験を、受けてみる気はないか?」
余りにも意外な提案に言葉が出ず、ただ私は仲影を見つめることしかできなかった。
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