アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
邂逅1
-
「結生ー、今日空いてる?」
とある新学期の放課後。朝倉結生はクラスメイトの呼びかけに、帰り支度をしていた手を止めて振り向いた。
「うーん、どうして?」
「いや、実は俺たちさ、今日このあとゲーセン行って飯食って帰ろって話してんだけど、お前もこねえ?」
「うーん…ごめんね、今日はちょっと用事があるんだ。だからまた今度の機会に」
いかにも申し訳なさそうに眉尻を下げてそう言うと、声をかけてくれた生徒はやっぱりそうかという風に残念そうな顔をする。
「そっか…結生は忙しいもんなー。また今度行こうぜ?俺たち一回結生とゲーセン行ってみたいんだよ」
な?とその男子生徒が後ろを振り返って自分の仲間内にそう問いかけると、そうだそうだとか俺結生と何々やってみたいんだよーといった相槌が聞こえてきた。それに曖昧な笑みを浮かべながら帰り支度を済ませると、鞄を持って席を立つ。
「ごめんね、また今度暇なときには」
「いいよいいよ、結生も用事頑張って」
「あはは、頑張るようなほどのことでもないけどね。じゃあ」
軽く手を振りながら浮かべられた少年のその笑顔は、教室を出た途端瞬時に消し去られた。今の今まで漂っていたその柔和な雰囲気も一気に冷たい刃のようなものへと切り替えられる。
そう、頑張るようなほどのことでもない。
ーーーーーだって用事なんて、本当はもとからないものなのだから。
しかしそれは、結生自身が望んでついている嘘ではない。ただその状況を諦めて受け入れていただけで。
校門を出て今時にしては珍しがられるガラケーを開くと、そのシンプルな画面には新着メールが通知されていた。メッセージを開けると出てきた予想通りの文章に、何のためらいもなくその画面のままケータイをパタンと閉じる。
『もう授業は終わってる時間でしょ?今どこにいるの?まだ帰って来ないの?電車に乗る前には連絡しなさいよ』
相変わらずな母からのメールに、正直もう高校2年にもなった男をこんなに心配する必要がどこにあるんだ、と思う。が、それを訴えたところでどうこうなるわけでもなく、また、下手に突っかかった時の母親の面倒臭さは結生自身が一番よくわかっているため、今更特にどうこうしようとも思わなかった。
さっきの用事の件についても同様だ。
母は、結生が学校の授業終了後に同級生とフラフラ出かけることを好まない。そんな無駄なことをしている暇があれば、勉強なり手伝いなりをしろと言う。中学生の時はそれに反発したりもしていたが、今はもうどうでもよくなっていた。というのも、誘ってくれた友人には申し訳ないが、さして仲が良いわけでも一緒にいて楽しいわけでもない人たちとわいわいガヤガヤと集ったところで、逆に気を遣って疲れるだけだからだ。
一体自分は何を考えているのか自分でもわからないまま駅のホームまで歩いていると、いかにも忙しそうなサラリーマンと肩がぶつかった。一応前は見て歩いていたはずだから自分に非はないとは思うけれど、軽く「すみません」と謝っておく。それに対し、相手は自分からぶつかってきたのにも関わらず舌打ちを返してきた。が、特に苛立ちもしなければ不快な気分にもならない。どこか別のところから、もう一人の自分が傍観しているような、そんな感覚だった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
1 / 21