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邂逅3
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誰にだって、人間表の顔と裏の顔くらいあるわけで。
朝倉結生も間違いなくその性質を備えつけている人間の一人であった。
「なあおい見たか!?あの掲示板」
「見た見た!すげえよなー、今年の生徒会、見事に全員美形揃いじゃん!」
朝っぱらから無駄にテンションの高い生徒たちに、登校してきて上靴に履きかえようとしていた結生は軽く溜息をつく。学校の敷地内に入った先程から、耳に入ってくるのはその話ばかりだ。
(やっぱりやめとけばよかったな…そうしたら母さんとあれほど大げんかになることもなかったのに)
そう、昨晩現生徒会長であるこの学校のアイドル的存在・観堂渚から掛かってきた電話の内容は、今年度の生徒会会計を引き受けてくれないか、ということだった。
というのも、この学校の生徒会は、会長・副会長は生徒たちからの推薦・投票で決まり、その他の役員は前年度の生徒会役員と新生徒会長、副会長の推薦で決まる、というようになっているのだ。そして何故かその人材に選ばれてしまったわけで。
結生は基本的に、人と群れるのがあまり好きではない。しかしそれは性格の本質的な問題であって、表向きには愛想もいいし、穏やかで優しく、そして極めつけに銀色に近い黒髪に紫がかった瞳、さらに女性と見まごうような中性的な美貌という嫌でも目立つ容姿をしているため、クラスメイトは勿論のこと、この学校の生徒たちからの人気は高かった。おまけに頭も悪いほうではなく、一ヶ月ほど前に行われた一年の学年末テストで数学満点、科学一問間違い、物理満点という明らかに理数系の結果を叩き出したのである。そんな人材に生徒会が目を付けない筈もなく。
さらに、ちょうどあまりにも過保護すぎる母にうんざりしていた頃である。毎日放課後に残って仕事をしなければいけないという、普通の生徒なら面倒臭いはずの条件も、そのときの結生にはかなり魅力的に映り、二つ返事で引き受けたのだった。
(にしてもなあ…あー家帰った後が面倒臭…)
結生が生徒会を引き受けたということを知った母は、やれ勉強時間がなくなるなどと烈火の如く怒りだし、こんなものがなければこんなことにはならなかったのに、とヒステリーを起こして結生のケータイを取り上げた。結生自身としては別に特に連絡するような相手もいないから、ケータイなんてあってもなくてもどうでも良かったけれど、一度ヒスを起こした母親は、どんな理不尽なことでも言いかねないから面倒臭かった。こうなれば彼女の怒りが冷めるまで家にいる時間を最小限に減らすに限るだろう。幸い今日は新生徒会役員たちの顔合わせがあるから、家に帰るのが遅くなる下手な言い訳をしなくてもすむ。
とはいえ、自分は人付き合いが苦手な方だしあまり顔合わせにも気が乗らない。生徒会を引き受けたのも、役職が会計という個人任務のものであったからであって、目立ったり人と交流する機会のあまりない仕事だからだ。
(まあ簡潔に自己紹介だけして、あとは適当に聞かれたことにだけ答えておこう。大丈夫、今まで通り一定の距離をとって自分から踏み込まなければ、ちゃんとうまくいけるから)
結生が、本当は人付き合いがただ苦手なだけではなく実は怖がっているということはまだ本人すらも気付いておらず。そして、それはまたこの時点ではだれも知らないだけであって、確かな事実であったのだった。
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