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解凍1
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敦賀の爆弾発言から数ヶ月のときがたった。
あれから敦賀は、二人のときだけーーーそう、たまたま二人だけ生徒会室に取り残されたときのみ、やたらと絡んでくるようになった。
それもものすごい俺様口調で。
『おい、お前、いつまで本性隠してるつもりなんだよ』
『…別に隠してるつもりなんてありませんよ、本当に無意識なんです』
『嘘つけ』
『ほんとです』
『だって俺の前では、あの時の顔できんじゃん』
そう、何よりも問題だったのが、あの日のあれを見られたからか、敦賀の前でも無意識のうちに愛想笑いの仮面が外れてしまうことだ。
おかげで、ほかの生徒会メンバーがいるときに敦賀にあの愛想笑いをにやにやしながら見られるのが、まるで両親と恋人に挟まれてそわそわしているような心境でかなり居心地が悪い。
『…どちらにせよ無意識です』
そして、この人の前では、自分でも信じられないほどになぜか口がよく回るようになる。
ーーーここしばらく、こんなに軽い調子で人と喋ったことなんてなかったのに。
でも、そんなやりとりをほんの少しでもーーーそれこそ、心の片隅でもーーー楽しいと思ってしまう自分がいるのも事実。
『やっぱりお前、おもしろいわ』
そんな関係が続いていたある日、ちょうどまた二人きりになったときにその言葉は吐かれた。
『どういう意味ですか、失礼ですね』
『そのまんまだよ』
また敦賀のわけのわからない発言が始まったーーーと、見向きもせずに書類の整理をしていると、それまで部屋の隅のソファーに座っていた彼が、いきなり立ち上がって近付いてくる。
『な、何…』
『例えばさ』
そう言って、敦賀は結生の顎にすっと指をかけると、そのまま自分の方へと持ち上げた。
『俺の前でだけ、そうやって別人みたいな顔見せてくれるところとか』
『…』
『普段はあんなに愛想の良い好青年を演じちゃってるくせに、実はかなり毒舌なこの口、とかさ』
そう言って下唇を親指の腹でなでられる。
『ちょ…っ…』
『お前さ、俺と付き合えよ』
いきなりふりかけられるその言葉はあまりに突然なのに、その声や瞳は信じられないほどに真剣で。
『一週間後の猶予をやるから、そのあいだに答え出しとけよ。ーーーま、何がどう転んでもお前は俺と付き合うんだけど』
そう言ってヒラヒラと手を振りながら部屋を出て行く敦賀に、結生は何も返すことが出来ず、ただ呆然と見送ることしか出来なかった。
あれから早一週間。
今日が約束の日である。
ーーー当然、答えなんか一週間も待たなくても決まっているのだが。
敦賀に告白と言っていいのかわからない告白をされた日から、悪夢を見る回数が異常に多くなった。
それもいつも同じ内容のーーーそう、まるでいつか自分が体験したことのあるような、鮮明なものを。
(何か、思い出しそうなんだけどな)
どうも記憶に靄がかかって、1番肝心な部分が思い出せない。
(まあ、どちらにせよ…)
普通はドキドキするはずの告白をされて悪夢を見るような相手なんて、いくら自分が一緒にいて楽しいと思っていてもうまくいきっこない。
ーーーそれに。
(俺は今まで、ほとんどの人と表面上の付き合いでやってきたんだ。俺には誰かに完全に心を開くなんてことはできないから…)
例えそれが、自分が好意を寄せる人間であって、も。
(下手に深追いして最終的に破滅するくらいなら、今の関係をずっと維持しておきたいし)
例えそれが、自分のことを好きだと言ってくれる人間であって、も。
ーーーあんな風に傷つくのだけは、もう二度と嫌だから。
そう思って結生が軽く息をついた時。
「待たせたな」
声とともにその扉は開かれた。
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