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Castrum de glacie
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「どうして」
君はただそれだけの言葉を紡ぐ。
氷の中に閉じ込め、意識を飛ばしそうになったところで氷を砕いた。崩れ落ちた君はとても綺麗だ。
困惑が見て取れるその顔に、喜びが込み上げてくる。
僕だけの君なのだ。
そっと抱き上げて指先で唇をなぞれば、僕の胸に顔をうずめてくる。
「あったかい」
そう呟く君の方がずっとあたたかいよ。
できることならば、氷の中に閉じ込めて時を止め、永遠に朽ちぬ君をずっと愛でていたい。だがまだ無理だ。僕は君の温もりから逃れられない。
君は一族のしきたりや業を忘れ、時や空間を操る魔術などを覚え神にでもなったつもりなのか。僕には君の考えが理解できない。
「何故、こんなことを……?」
抱き締めて頭を撫でれば、君は惚けるように僕の顔を見て着衣をきゅっと掴む。
「君には、僕だけが居ればいい」
僕の言葉に全てを理解したのだろうか。君は何かを諦めたように白痴めいた笑みを浮かべている。
「あは、はっ……私が、貴方の所有物になれば。貴方は満たされるのですか?」
「魂すら僕のものにできるのならば」
感情がぶれて魔術の制御がきかない。冷たい風が、僕と君の周りを渦巻いている。そっと抱き締めた腕を離せば、君はへたりとその場に座り込む。
君の前に、僕はただ笑みを浮かべ佇んだ。
自ら縋り付いて来た君は、心にもない言葉を吐く。それでも僕は満たされた。たとえ嘘でも、結局僕にはそれで充分なのだ。それだけ、僕は君で一杯なのだから。
ああ、きっと。
きっと僕が君を永遠のものとしようとする時は。
それは君が戦死した時だろう。
理性ではいけないとわかっていても僕の本能は君を欲しがる。乱暴に組み敷き、その肢体を暴き貪る。君はなぜ抵抗しなかったのだろう。受け入れるかのように巻きつく君の四肢に益々僕の想いは募る。
君はきっと何も言わずに日常に戻るだろう。僕を責めることもせず、ただ僕を避けるだろう。そして、僕が忘れたのではないかという頃に、関係を修復しようとするだろう。
いっそ思い切り拒否してくれれば、僕と君は前のままの関係でいることができたのではなかろうか。
くたりと脱力する君の身体を掻き抱き、僕は白昼夢に襲われた。
氷の城の中、時の止まった美しき君をこの腕に抱き。吹雪の音以外なにも聴こえぬ永遠の静寂の中で眠る僕。
満たされた、満足そうな顔で眠る僕の横で。
永遠に変わらぬ慈愛に満ちた女神のような微笑みで。
君はただ、眠る僕に寄り添っていた。
今はただ君の温もりに縋りたかった。
制御できない魔法がみしみしと音を立てて君を氷で包む。君を抱き締める僕をも、飲み込んでいく。
嗚呼、破滅とはこんなに甘美なものなのか。
自嘲する僕の意識をも氷が覆い尽くして。
僕の願いは叶ってしまった。
Fin
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