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――そこには果てしない暗闇が広がっていた。そして、その暗闇の中に彼と両親がいた。どこか楽しそうで、そして、ひどく懐かしいような光景だった。父は彼の手をとると母も彼の手をとった。親子3人で仲良く散歩している風景が目に飛び込むと彼はそれを眺めてみつめた。それは彼の中の極小さな幸せの思い出の欠片だった。
彼は暗闇の中でその光景をもう1人の自分の目で眺めていた。そして、場面がかわるとそこには両親の葬儀の光景が暗闇の中に現れた。それは彼にとって思い出したくもない記憶だった。教会で行われた葬儀の参列に、小さい彼は喪服姿で大人と一緒に列に並んだ。手には赤い薔薇を持ち、その薔薇を祭壇の上に置いた。彼は思い出したくもない記憶を暗闇の中で見せられると大声を出してわめいた。
「やめろ……! こんなもの見せるなっ……! 頼むから見せないでくれっ!!」
彼の意思とは関係なく、暗闇の中で誰かのヒソヒソ声が聞こえた。
「かわいそうに……。まだ10歳なのに両親をいっぺんに亡くすなんて…――」
「仕方ないさ。あれは事故だったんだから…――」
「やめろ!」
「あの年で伯爵だとはな。シュタイン家も落ちぶれたものだ」
「やめろ……! やめろ……!」
「かわいそうなローゼフ。マリアンヌ様を亡くされてさぞかしいお辛いでしょうね…――」
「頼むからやめてくれ! こんなこと思い出させるな――っ!!」
暗闇の中で悲痛な声で叫んだ。ローゼフの意思とは関係無しにもう1人の自分の声が暗闇の中の光景から聞こえてきた。
「これは嘘だ……! 父上と母上は死んでなんかいない……!」
もう1人の自分は深い悲しみに暮れると、祭壇の上に置かれていた薔薇を全て払い除けて泣き叫んだ。
「父上ーっ! 母上ーっ! ワァアアアアアアアッ! どうして私をおいて逝ったのですか!? 私も一緒に…――!」
もう1人の自分は取り乱したように叫ぶと、床に両手をついて泣き叫んだ。ローゼフはその様子を暗闇の中で呆然と見つめた。自分の中で思い出したくもない辛い過去を記憶の底から掘り返されると、彼は言葉を失って悲しんだ。すると、また暗闇の中でヒソヒソと声が聞こえてきた。
「彼はもう何年も屋敷に閉じ籠ってるそうじゃないか、亡くなった両親のことがよほどショックだったんだろう。しかし、いつまでもってわけにはいかないだろう。彼に付き添っているパーカスが気の毒に――」
ローゼフは暗闇の中から聞こえてくる声に言い返した。
「お前達に一体何がわかる!! お前達は父と母が死んだあと、私の財産目当てで近づいてきた癖に…――! お前ら汚れた大人は人の弱味につけこんで、私から財産を奪おうとした! そして私が孤独で寂しかった時、手すら差し伸べなかった癖に笑わせるな! お前達なんて私の世界から消えればいい!」
暗闇に向かって大声で叫ぶと、自分の中でおさえていた感情を爆発させた。 すると、もう1人の自分が側で囁いた。
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