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「フッ……。私は一体、何をやっているのだ……。おとぎ話に出てくる鏡ではあるまいし、鏡が人の声に反応するなどあり得ない……」
ローゼフは酷く落ち込むと、ピノを失ったショックで自分の頭を抱え込んだ。
「ああ、ピノ……! すまなかった……! どうか私を許してくれ、オーランドの罠に引っ掛かるなどとはどうかしている! もっと早くに気がつくべきだった! それなのに私は……! くそっ! あの時、お前から傍から離れるんじゃなかった! ああ、私のピノ……! どうか無事でいてくれ…――!」
彼は祈るような気持ちでピノのことを強く思った。するといきなり鏡の中から母の声が突然、聞こえてきた。
「ローゼフ……。私の可愛い坊や…――」
「は、母上……!?」
彼は後ろを振り返ると、立ち上がって鏡を見つめた。すると僅かに母親の声が鏡の中から聞こえてきた。
「貴方は何を願うの……?」
「そ、そこにいるのは母上なのですか……!?」
問いかけに母は何も答えなかった。彼は気の迷いを振り払うと、鏡に向かって話しかけた。
「どうかピノの居場所を教えて下さい……! 私にはあの子しかもう居ないのです……! あの子まで失ったら、私はもう生きてはいけません……! お願いします……! どうかどうか……! 私にあの子の居場所を……! 私はあの子を、ピノを愛している!」
悲痛な想いで気持ちを伝えると鏡は突然、強い輝きを放った。そして、目映い光を放つ鏡の奥から映し出されていた光景は大きな時計台の塔だった。塔の天辺にピノは体をロープで縛られたまま、そこに横たわっていた。 そして、鏡にはアーバンとオーランドが映し出されていた。
「こ、ここは何処だ……!?」
「ローゼフ様、これは一体……!?」
パーカスは驚きを隠せない様子で鏡に近づいた。ローゼフは取り乱しながら鏡の前で話しかけた。
「ああ、ピノ! 今すぐ助けてやるからな!」
胸の中を激しく掻き乱されると、鏡に触れながらピノに触ろうとした。
「ああ、なんて歯がゆいのだ……! こんなに近くにいるのに触れないとは……!」
彼はそこで取り乱しながらピノの名前を叫んだ。そして、鏡はピノの居場所を映し出すと静かに消えた。映像が終わると鏡は元の鏡に戻った。もうそれ以上、何も起きなかった。ローゼフが深い悲しみに暮れているとパーカスが何かを持って慌てて部屋に入ってきた。
「ローゼフ様……! た、大変でございます……!」
「どうしたパーカス!?」
「たった今ですが、オーランド公爵から貴方様宛に手紙が届きました……! 使用人が門の前で手紙を拾ったそうです……!」
「何!? 今すぐそれを渡せ!」
急いで受けとると、すぐに手紙の封を切って開けた。そして手紙にはローゼフ宛にこう記されていた。
――今宵、満月が満ちる夜の12時。時計台の塔に一人で来られよ。
彼はその手紙読むなり確信した。
「時計台の塔、やはりあの場所にピノが囚われているのか!?」
直ぐに懐中時計で時間を確認すると、時計はすでに10時を過ぎていた。そして、読み終るとローゼフは手紙をビリビリに破いて捨てた。彼は何も知らないパーカスにピノの居場所を伝えた。
「なりませんローゼフ様……! きっとこれは罠でございます! お一人で行かれるのは、大変危険でございます!」
「ええい、黙れ! 私が行かなければピノの命が危ない! それに私はあの子を失いたくないのだ! お前なら私の気持ちがわかるだろ!?」
「ロ、ローゼフ様……!」
ローゼフは自分の気持ちを彼に伝えると、パーカスはやむを得ず道を開けた。
「わかりました。それが貴方様の答えなら、私は目を瞑りましょう…――」
「すまん……」
「ですが一つだけ、私とお約束して下さい。どうか必ず戻ってきて下さい……!」
「パーカス……?」
「私は貴方様までも失いたくはありません……! 貴方様がピノを心からおもうように、私にとって貴方様は大事な坊ちゃまでございます! だから必ず生きて戻ってきて下さい……! そして、私を安心させて下さい……! 貴方様が留守の間は私がこの屋敷をお守りします。だからお願いしますローゼフ様…――!」
「ああ、約束しよう。私はピノを連れ戻し、必ずこの屋敷に帰ってくる。ありがとうパーカス、私のことを心配してくれて…――」
そう話すと、ローゼフは優しく微笑んだ。
「お前は誰よりも信頼できる執事だ。そして、私の父の代わりでもあった。お前が傍にいた事で私は随分と救われた。これからも私に仕えるがいい…――」
「おお、ローゼフ様……!」
パーカスはその言葉に感激すると瞳から涙を流した。ローゼフは何も言わずにパーカスの背中を軽く叩くと、彼はそこから立ち去ったのだった。そして、時計台の塔に囚われたピノを救いに向かった。それがオーランドの罠と知りながらも――。
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