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数日後、ローゼフはクルドア公爵の手紙に返事を書くとベアトリーチェに会う意志を伝えた。気乗りしなかったが、パーカスの言葉に考えさせられた。彼が手紙を書いているとピノは玩具を持って現れた。
「みてみてローゼフ! この筒、中がグルグル回って綺麗なんだ! ねえ、みてよローゼフ~!」
ピノはローゼンの袖口を無邪気に引っ張ると、傍で話しかけてきた。彼はあきれた顔をすると、ピノを自分の膝の上に乗せた。
「どれ、私にも見せてみろ……」
ローゼフはピノから筒を受けとると、中を回して覗いてみた。細長い筒の中には色とりどりの綺麗な宝石が幾つも散りばめられて回っていた。
「ああ、確かに綺麗だ。中で色とりどりの宝石が回っているな。それに幻想的だ」
「でしょでしょ! ねえ、ローゼフこれなぁに?」
「これは万華鏡と呼ばれるもので、東洋から古くから伝わるものだ。これは私が集めた骨董品の中でも、得に気に入っている物だよ。それよりこれをどこから持ってきた? ん、さてはお前。また私の大事なコレクションルームに入ったな?」
「うん、だってボク凄く暇なんだもん! それに骨董品が一杯あって見てて楽しいよ! ローゼフ、よくあんなに沢山集めたね?」
ピノは素直に話すと無邪気に笑った。ローゼフは呆れた表情で溜め息をつくと、いきなり脇腹をこちょこちょとくすぐった。
「このいたずらっ子め~! あそこの部屋には勝手に入ってはいけないと言っただろ!?」
「キャハハハッ! ローゼフくすぐったいよ~! やめてよぉ!」
2人は楽しそうにふざけあった。すると突然、彼は不意にあることをピノに尋ねた。
「お前に一つ聞きたいことがある」
「何、ローゼフ?」
「お前は愛玩ドールで、そのうえ生きた人形だ。他の人形とは違う。そして私に愛し愛される為に生まてきた人形と、お前は以前そう話してくれた。そしてドールの幸せを私に教えてくれた。どうだ、今幸せか?」
「うん、すっごく幸せ! ローゼフと毎日いられて幸せ過ぎて怖いくらい幸せだよ!?」
「そうか、幸せか…――」
「ローゼフも幸せだよね? だってボクのこと好きなんでしょ?」
ピノはそう言うと悪戯に顔を覗き込んだ。ローゼフは顔を覗き困れると、少し照れた表情で言い返した。
「コラコラ、そう言うことはハッキリと口に出して聞くことじゃないぞ?」
「え~、つまんな~い!」
ピノは不貞腐れるとほっぺたを膨らませた。
「聞きたいことが一つある。こんなことを言うのもなんだが、ハッキリとしたいから言わせてもらう。お前には薇がない、それはわかっているな?」
「うん!」
「お前が動けるのは、私の愛を貰ってそれを力に変えてお前は動けるんだ。どうだあたっているか?」
「すっごーい! よくわかったね! そうだよ、ボクはローゼフの貰った愛の力で動けるんだ。だからもっと一杯、ボクを愛してね!」
無邪気にそう答えると、愛らしくニコリ笑った。ローゼフはピノの無邪気な眩しい笑顔に胸を痛めると不意に表情が曇った。
「そうか、やはりな。まさかとは思っていたが…――」
「ローゼフどうしたの?」
ピノは心配そうに彼の顔を覗き込んだ。
「では、私の愛がなくなったらお前はどうなる…――?」
その言葉にピノは驚くと、急に胸の奥を貫かれたおもいに襲われた。そして、小刻みに震えると今にも泣きそうな表情で聞き返した。
「ど、どうしてそんなこと急にいうの……? ローゼフはボクのこと飽きちゃったの?」
「何を言っているんだ? 私はただ――」
「触らないで!」
「ピノ……!?」
「触らないでよ!」
「わかった……! ローゼフはボクのこと飽きちゃったんだ……! もう好きじゃなくなったんだ……! だからそんなこと……!」
「違う、私はただ……!」
彼が言い聞かせようとするとピノはいつの間にか涙を流していた。その表情はとても深く、傷ついた瞳だった。ローゼフは知らぬ間に自分がピノを傷つけたことに気がつくとすぐに謝った。
「すまん……。私はお前を傷つけるつもりはなかった。どうか許してくれ、もうこんなことは二度と聞かないから頼む……!」
ローゼフはそう言ってピノを自分の腕の中にぎゅっと抱き締めた。ピノは彼の腕の中で大きな声を出して泣きじゃくった。そして、彼は心の中でピノの恐怖を悟った。人形のピノにとって動けなくなることがどんなに恐ろしく、怖いことかを――。
ましてや子供のピノにとって、死も恐怖も知るには幼すぎ年頃だった。ローゼフは愛玩ドールの隠された秘密を知ると、ひどく困惑した。そして自分の胸を痛めた。
私の愛がなくなれば、この子は動けなくなるのか……。私はなんて愚かな質問を聞いたんだ。この子にとって私の愛は必要不可欠なのか。ならば、私はピノを…――。
彼は泣きじゃくるピノを優しく抱き締めてあやすと、自分の胸の中に密かなおもいをしまいこんだのだった。
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