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ローゼフはローザンヌ家の屋敷に訪れた。彼の突然の訪問に、クルドア公爵は不思議そうに首を傾げた。
「これはこれはローゼフ伯爵ではないか。我が家に何かようでございますかな?」
「え……? クルドア公爵、私に手紙を送りましたよね? 返事も書いたはずですが……。今日、訪問する約束のハズです――」
そう答えると、彼に手紙を渡した。
「どれどれ、拝借……」
クルドアは自分が彼に送った手紙を読むと、ローゼフに伝えた。
「すまんがローゼフ伯爵。私を貴公にこのような手紙は送ってはおらん。一体なんのことかさっぱりわからんが、これは何かのジョークかね?」
彼がそう言って答えると、ローゼフは突然ハッとなった。
「確かにこの手紙に押されている封蝋の印璽は我が家のシンボルマークですが、このシンボルマークは似てるようで若干、形が違います。それにうちのシンボルマークには王冠の下に星が5つですが、これには星が3つしかありません。私からとみせかけて、これは誰かが手紙に細工をしたのではないでしょうか?」
ローゼフはその話を聞くと、酷く混乱した様子で座っていた席を立ち上がった。
「ば、ばかな……!?」
「いいですか、ローゼフ伯爵。私は貴公に手紙を書いたことも送ったことも一度もないです。なんなら保安官を呼んで調べてみますか? その方が手っ取り早い――」
クルドアは彼にそう話すと、ありのままの事実を告げた。ローゼフがいまだに信じられない様子でいると、2階の部屋からベアトリーチェが降りてきた。
「まあ、ローゼフ様……! まさか私に会いにきて下さったのですか!?」
彼女は長いスカートの裾を両手で掴むと、慌てて階段を降りて彼の側に歩み寄った。
「いや、そうだったがどうやら間違いらしい……。来て早々にわるいが、私はここで失礼するよ」
「待って下さいローゼフ様……! そうだわ、よければお茶を一杯、私が淹れますわ!」
彼女は嬉しそうな顔で話しかけると、彼の腕を掴んだ。するとローゼフは一言謝った。
「すまん、ベアトリーチェ……。私はきみの気持ちには応えられない…――」
彼がいきなりその事を告げると、彼女は呆然とした表情で立ち尽くした。
「そ、そんな……! ローゼフ様……!」
彼女が掴んだ手を不意に振り払うと、ローゼフは慌ててローザンヌ家をあとにした。ローザンヌ家を急いで出ると、ローゼフは馬車を走らせて慌ただしく屋敷に向かった。
"しまったやられた…――!"
彼は心の中でそう呟くと、妙な胸騒ぎを感じた。
この手紙は私を誘き寄せる為の罠だったか! そうだとしたら一体誰が……? もしや、彼か…――!? ああ、私のピノ。どうか今は無事でいてくれ……!
祈るような気持ちにかられるとピノの安否を心配した。 そして、夜になって急いで屋敷に戻るとそこにパーカスが慌ただしく駆けつけた。
「た、大変ですローゼフ様……! ピノがピノが……!」
「ええい、おちつけパーカス! ピノが一体、どうしたんだ!?」
彼が急いで尋ねるとパーカスは顔から冷や汗をかいて伝えた。
「いないんです……!」
「なにっ!?」
「いくら探しても見当たらないんです! それこそ使用人達全員でピノを必死で探しましたが、屋敷の中を見て回っても、どこにもピノがいませんでした! ああ、なんてことでしょう……! どうかお許し下さい……!」
パーカスはその場で地面に両手をつくと、頭を下げて心から謝った。そして、表情を曇らせながらピノの安否を気遣った。ローゼフは突然、頭の中がカッとなると持っているステッキを地面に投げ捨てて怒りを露にした。 そしてそのまま、彼は自分の部屋に向かうとピノを必死で探し回った。
「ピノ、今帰ったぞ! いるんだろ!? 今すぐ出てきなさい! みんなお前を心配している! 私もお前を心配しているんだ! さあ、怒らないから出て来なさい!」
ローゼフは部屋の中で声をかけると、手当たり次第に必死で探した。
「そこにいるのか!? それともここか!? ピノ早く出て来なさい!」
彼はクローゼットを開けたり、ベッドの下をみたり、ピノが入っていた鞄も開けてみた。でもいくら探しても一向に出てこなかった。ローゼフは自分の部屋から出ると彼は心当たりがある部屋をしらみつぶしに見て歩いて回った。でも、いくら探し歩いても屋敷の中には姿はなかった。 そうなるとたちまち不安感は、彼の胸を一気に押し潰した。間もなくしてローゼフはパーカスの所に再び向かうと唐突に尋ねた。
「屋敷の庭は見たのか!? 噴水の中は調べたか!? どうだ、今すぐ答えろ!」
彼が取り乱した様子で尋ねると、周りにいた使用人達やメイドはすぐに答えた。
「我々も外を見て回りました! ですがどこを調べてもいませんでした! ましてや噴水なんて……!」
「ええい、うるさい黙れ! そこを退けっ!!」
激しく取り乱すと、周りの制止を振り切って噴水に両手を入れて調べた。
「もしかしたら溺れて沈んでるかもしれないだろ! ピノ、今すぐ助けてやるからな!」
完全に正気を失うと、パーカスは慌てて後ろから取り押さえた。
「お、落ち着いて下さいローゼフ様……! どうかお気をしっかり! そこにはピノはいません!」
「ええい! 離せ離せ離せぇーっ! ピノ、私だ! どこにいるんだ返事をしろーっ!!」
ピノが消えたことにローゼフは精神的なショックを受けると、その場で途端に気を失って倒れた。パーカスは倒れた彼を抱き止めると瞳に涙を潤ませた。
「おお、可哀想にローゼフ様……。ご両親を亡くされ、その上ピノまでいなくなるとは。きっとショックに違いありませんな。さあ、早く彼を寝室に運ぶんだ…――!」
パーカスは周りにいた使用人達に声をかけると、気を失ったローゼフを寝室に運ぶようにと伝えたのだった。
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