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「彼と出会ったのは偶然でした。彼は何年も放浪の旅をしていました。身なりは汚れていて、どうみても浮浪者のような格好でした。そんな彼を私はある日、山道で自分の馬車で轢きそうになったのです。それこそあと少しで轢くところでした。もうその時の彼には動く力も無さそうに見えました。ついでに彼は長年の放浪生活で重い病を発症していました。顔色はとても酷かったです。ついでに彼には身よりもなく、誰も頼る人がいないと思った私は、このまま山道に倒れた彼をほっとくのも可哀想になり。自分の家に連れて帰って懐抱してあげました。初めは私の事を警戒してましたが、看病をしているうちに彼は徐々に元気を取り戻したのです。彼は私と色々と話しているうちに、自分の事を教えてくれるようになりました。もうその時にはすっかり元気になってましたけどね。そしてある日の晩のこと、私と彼はお酒を飲みながら他愛もない話をしていると、彼は酷く酔ったのか、自分の過去について話し始めました。私は最初、冗談だと思いましたが……。彼の話を聞いていくうちに、その話を信じざるを得なかったのです――」
アーバンがそのことを話始めると、ローゼフは頑なに息を呑んだ。
「彼は昔、若い頃に不思議な人形を手に入れたそうです。そしてその人形はただの人形ではなく、生きた人形だったそうです。彼は聞いた話に基づいて、その人形に命を吹き込みました。それが貴方様がやったあの魂の儀式です」
「なっ……!?」
「人形は姿を変えると生きた人形に変わったそうです。それはまさに貴方様が成し得たことを彼も成し得たと言ってもいいでしょう。彼の手により誕生した愛玩ドールは、可愛らしい少女だったそうです。彼は人形の一方的な愛に初め悩まされ、随分と悩んだそうです。しかし愛玩ドールの放つ不思議な魅力にとりつかれた彼は、今の貴方様のようにその人形を心から愛したのです。そして、その少女も彼のことを心から愛しました」
アーバンのその話にローゼフは心が歯痒い気持ちになった。
「では……! では何故、そんなに愛していたドールを殺さなければならなかったのだ……!? そんなことまちがっているぞ……!」
彼はやり場のないおもいをぶつけるとアーバンは答えた。
「そんな理由など簡単なことです。愛がすべて許されるわけではありません。ましてや、人と人形の偽りの愛など誰が許すでしょうか?」
アーバンのその言葉に彼は急に黙り込んだ。
「彼にはその時には既に婚約者の女性がいました。彼自身は彼女との結婚など、心から望んでおりませんでした。しかし、彼のご両親は自分の息子が人形に偏愛を抱いていることを恥じたのです。そして、その事実を必死で隠そうとした彼のご両親は彼女と無理矢理、結婚させたのです。彼は人形との誓約は解除しなかったものの、人形への愛が段々と薄れていったのです。そして人形自身も彼の愛が自分から遠ざかっていくのを感じたのです。やがて彼は少女の悲しみに耐えきれず、悩んだ末に彼は決意しました。そして少女をその銀のナイフで刺して誓約を解除したのです。少女は魂を失うとただの人形に戻り、彼の名前を呼ぶことも、話しかけることも、愛すことも二度と無くなったのです」
「バカな……! 自分から逃げるとは、なんて愚かな選択を…――!」
ローゼフはやり場の無い悲しみに唇を噛み締めると、複雑な思いに心が揺れた。
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