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遭遇3
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近くまで来られても、その男が誰かは思い出せない。
童顔なのかわりと可愛いらしい顔立ちをしていて、歳はいくつなのか全くわからないタイプだ。白髪混じりだが、サラサラとした色素の薄い茶髪。その奥に潜むくるっとした瞳は、意味ありげにおれを見つめている。
「降参?」
含み笑いでおれを見る目は、どこかで見たことがあるはずなのだが、全く思い出せない。
「降参、まいりました。・・・で?」
アンタは誰だ?と目で尋ねる。
目の前の年齢不詳の男は、人懐っこい笑みを浮かべて、隣に座る。
「まあ、前に会ったときは変装してたからねえ。・・・亮君の、と言ったら思い出すかな?」
なぞなぞを出すような顔で笑いかけられて、ようやくこの男が誰なのかわかった。
亮がいつも“先生”と呼んでいる、職場の上司でもあり、亮の体の慰め役でもある男だ。
以前一度だけ、会ったことがある。
その時には、すでに亮がこの男と寝ていることを知った直後で、複雑な気持ちを抑えるのに必死だった。
そんなおれに、今みたいな謎解きを与えるような顔で、この人は言ったのだ。
『ヤキモチ妬かないでね。僕たちのは、相互オナニーみたいなもんだから』
純朴そうな顔でオナニーとか平気で口にするのを見て、亮と全くタイプが違うことに、妙に納得した自分を覚えている。
「アンタか・・・」
胸の内に苦いものが沸き上がる。
おれは亮を諦めなければならないのに、なんでこいつはこんなに飄々としているんだ。
悔しさが込み上げる。
その悔しさは、男が再び口を開いたことで最高潮になった。
「とうとう、亮君のこと、吹っ切れたんだ?」
もしかしたら、心配してくれていたのかもしれない。叶わぬ恋に身を焦がすおれを憐れんでいたのかもしれない。
けれど、どちらにしても、亮と体の関係のあるこの男に思われたくなかった。
そして、その発せられた言葉に愉快そうな気配を感じて、コントロールできない苛立ちが全身を包む。
「アンタには関係ないだろう」
そう言って、立ち上がる。
マスターに一言、「ここに置いとく」と千円札を一枚カウンターの上に置いて声をかけ、返事も待たずに店を飛び出した。
男が何か言っていた気もしたが、聞きたくもなかった。
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