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救出5
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手の中の携帯を睨み付け、しばらく考え込んでいた。
さっきの電話の男、田中とやらに電話をしてみても、結果は変わらない気がする。それなら、不快な思いをせずに諦めて引き受けたほうがいいのではないか。
田中という男は、多分わざとなのだろうが、人を不快にさせつつ自分の意のままに操る天才だ。それがヤクザのスキルなのだろうか。
かれこれ一時間以上前の、田中との電話越しの会話を思い出していた───
『おい、終わったのか?』
久しぶりに見た、開くタイプの携帯を通話状態にした途端、相手が口を開いてきた。
「あの、この携帯の持ち主の知り合いですか?」
相手が誰なのかわからない以上、不躾な声にも一応丁寧に尋ねる。
『アンタ、誰だ?・・・客じゃねえよな?』
客、その一言で相手は青年が売りをしていることを知っている人物だと知り、内心安堵する。
青年の今の状態を説明するとしても、どう言葉を濁せばいいのか不器用な自分にはわからなかったからだ。
「客じゃない、通りすがりのもんだ。そう言うアンタは彼氏かなんかか?」
口調を相手に合わせてくだけさせ、青年との関係を尋ねる。親しそうな雰囲気から恋人かどうかを尋ねたのに、相手は電話の向こうで大爆笑した。
『よりによってソイツの彼氏と間違えられるとはな。俺も落ちぶれたもんだ。・・・俺は、ソイツの売りの元締めだ』
笑われたことで、頭がカッとなってしまったおれは、そのあとかなり怒鳴ってしまう。どうしてそんなに怒りが込み上げたのか、自分でもよくわからなかったが、散々怒鳴ってようやく落ち着いてきた頃に、こんなことをしてる場合じゃないことを思い出す。
もうすぐ警察がきてしまう。面倒ごとに巻き込まれるのはごめんだ。
そう言って、通話を切ろうとすると、のんびりとした声が携帯から響く。
『なぁ、通りすがりの兄ちゃん、そのぼろ雑巾みたいな奴のことは放っておいてくれて結構だ。兄ちゃんもそんな汚えのに構ってる暇はねえよな。ま、ソイツが警察の厄介になったとこで、俺も兄ちゃんにも関係ないから気にすんな。・・・まあ、ソイツは何年か食らうだろうけどな』
そこまで言われて、はいそうですか、と放置できるやつがいるはずもない。
気がつけば、おれは限りなく低い声で、どうすればいいのかを電話の相手に尋ねていて、ソイツが笑いをこらえたように、もぐりの医師の所在地と『田中に言われてきたって言えばわかる』と言う言葉を頼りに、青年をそこに連れていくことになっててしまったのだ。
───そして、なぜか今はこの売りの青年を押し付けられている。
おれはどこで選択を間違えたのだろう。
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