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覚醒5
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結局、ぶっきらぼうな言葉しかかけることのできない自分が情けない。
優しく、安心させる言葉を撰んでやればそれでいいだろうに。
それでも、体のダメージが大きいのだろう、おれのことを気にするでもなくそのまま眠ってしまったじゅんをしばらく眺めていた。
ふと手に持ったままのペットボトルを見つめる。昨日からほとんど減っていない。
考えてみれば、昨日病院からおれの家に運んだあと、じゅんは何も食べていない。水分もあの様子を見ていると飲みにくいのかもしれない。
かなり、口元も腫れてるもんな・・・口の中も切れてるんだろーな。
何か食事でも用意してやるか、とバイト疲れで重い体を動かした。
用意したのは、イタリアではズッパ・ディ・パーネと呼ばれるものだ。少し古く硬くなったパンをスープで柔らかくして食べる。いわゆるパン粥のようなものだ。ちょうど、賞味期限がギリギリの食パンがあったし、スープのストックもあった。
これなら水分も口に広がらないし、消化もいいし、ちょうどいいだろう。
多目に作って自分も腹を満たしておく。少し塩気が強いかもしれならいが、それくらいの方が食も進むだろう。
二日酔いの時よく食べるこれは、おれが料理の道へ進もうと決めたきっかけでもある、イタリア料理の店の親父から教わった。
レシピと言うほどのものではないこの料理が、おれは実は一番気に入っていた。
今日は珍しく全てのバイトが休みだし、ゆっくりこいつの面倒を見てやるのも悪くない。
眠り込んでいるじゅんの顔は、おれの夢に出てきた顔よりもずっと幼く見える。唇が青紫色に変色していたり、右のまぶたが腫れていたり、頬やら額やらあちこちに擦り傷と痣が残っているが、それでもかわいい顔つきなのは見てとれる。
そういえば、目もでかかったもんな。
先程、少しだけ目を覚ましたときの様子を思い出す。
口が動きにくいのもあるのだろうが、たどたどしい口調は、あのトイレでのふてぶてしい態度とは全く違っていて、印象ががらりと変わってしまう。
もしかして、別人なんてこと、ないよな?
そっと目にかかっていた前髪をかきあげてやる。
傷んでいると思い込んでいた髪の毛は、思いの外さらさらとした手触りで、妙に気持ちがざわついた。
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