アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
覚醒6
-
男の独り暮らしでも洗濯物がたまることはたまる。
せっかくの休みを有効に使わねば、と一週間ぶりに洗濯を始めた。
じゅんの傍にいると、なぜか気持ちが落ち着かない、それを誤魔化すためでもあったのかもしれない。
下着やら、バイト用のシャツなんかをまとめて洗いながら、自分自身への言い訳に追われていた。
落ち着かないのは、多分あんな変な夢にアイツが出てきたからだ。
そうに決まっている。
このアパートにはベランダなんてものはない。六畳間に出窓があって、そこに簡易の物干し台があるだけだ。
洗濯の終わったタオルや衣類なんかを部屋に運び、窓を開けて干し始めた。静かにしなければ、下の住人がまた文句をいいに来るだろう。
澱んでいたほどではなかったが、部屋の空気とは違う外の空気は気持ちがよかった。こんな健全と言えないような場所でも朝の空気は清々しいもんなんだな。
空気が入れ替わったせいか、じゅんが布団の上でもぞっと動いた。
起きたのか?
とっくに干し終わった洗濯物を弄りながら、じゅんの様子を見守る。
痛みなのか顔をしかめているものの、さっきのような泣き出しそうな様子はない。そのことに無意識に安堵しながら、じゅんが覚醒するのを眺めていた。
「んぅ・・・」
子猫が起き出してくるような、そんな印象を受ける。じゅんの顔は猫と言うよりタヌキっぽい感じだが。
動く方の左手で、ごしごしと目元をこすって、傷にさわったのかきゅっと痛みに眉が寄る。状況が把握できたのか、次の瞬間には大きく開いた瞳がおれを捉えていた。
「あ・・・」
「よう、目が覚めたか」
見つめていたことに後ろめたさを感じて、慌てて何か言いかけたじゅんの言葉を遮るように声をかけた。
「ここ、あんたん家だっけ?・・・俺、あれからかなり寝てた?」
「いや、せいぜい一時間ってとこだろ。・・・メシ出来てるから、ちょっとは食え」
ズッパ・ディ・パーネは、程よく冷えていた。これくらいの温度なら傷にもあまり影響はないだろう。
もしかしたら、じゅんはすぐにまた眠ってしまうかもしれないと 、少し慌てて適当な皿に盛って、部屋に戻る。
ぼんやりとしていたが、じゅんはまだ起きていた。
「これなら、傷にしみねーから、食べとけ」
皿を差し出すと、キョトンとした顔で動こうとしない。スプーンは付けていたが、食べにくいだろうか。
一匙すくって、口元に近付けるとようやく口を開いた。
半開きの赤い唇は、別のことを想像しそうで慌ててスプーンを差し込む。
「・・・おいしぃ・・・」
その一言に、無意識に顔が緩む。よかった、素直に思うのに、それを上手く表すことのできないおれは、またしてもぶっきらぼうな口調を崩すことができなかった。
「ずっと何も食ってなかったんだから当然だろ。これ食ったら薬のんで寝ろよ」
我ながら冷たい言い方だと思ったのに、じゅんは気にした様子もなかった。普段から酷い扱いに慣れてるのかもしれない、そう思うと胸の奥が軋むが、今更この性格はどうにもできない。
ただ黙って、じゅんの口へとパン粥を運び続けた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
46 / 118