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紙切れ1~sideまさと~
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唐突に、純がおれに向かって言った言葉。
「そろそろ、ここ出てくよ」
その言葉を理解するのに、時間がかかった。出ていくって言ったのか?今。
そしておれが状況を把握するより前に、純は話をどんどん進めてしまっていた。
「かなり長くお世話になっちゃったし、自分ちもそんなに放置できないし、さ。なんか田中からも、そろそろ仕事に戻れって催促の電話があったし」
待ってくれ、行かないでくれ。
そう言いたいのに、口はピクリとも動かなかった。
「あの件なら、ちゃんと田中が対処してくれたみたいだから、もう大丈夫らしいし」
あの件、とは純に暴行を加えた相手のことだろうか。あのヤクザが対処した、というのだから本当にもう心配はいらないのだろう。
ということは、それを理由に引きとめることもできないということで。
そもそも、おれが引き止めたところで、純が大人しく言うことを聞いてくれるなんて全く想像もできない。
好きだ、と伝えても何の態度も変わらなかった純。あまりにも軽い調子で、『好きだよ~』と返された時には、悲しみよりも苛立ちすら覚えた。届かない。おれの思いは届かなかったんだ。
そんなおれが何を言える?
結局、おれは「そうか」とだけしか言えなかった。
純はおれの様子に気がつくわけもなく、「ちゃんとお礼はさせてよね?」とにこやかに微笑んでいる。
手を伸ばせば届く距離が、こんなにも遠い。
そして、あっさりと、純はおれの狭いアパートから、出ていった。
おれに残されたのは、一枚の紙切れだけだった。
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