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夏の夕蝉1
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「遠くへ行こう」
唐突に君がそう言った。
別に異論はないし、君が望むなら何処へだって行こう。
田舎の山の中の忘れ去られた長く続く線路の上。じゃりじゃりと小石を踏む音。
その上に君が横になる。
「待とうか。僕らの列車が来るのを」
まるで宮沢賢治の銀河鉄道の夜のような言い方だ。
いや、あれはなんだったか?何かの映画にも似ている気がする。
君の待つ列車は来ないよ。そう言おうとしてやめた。
君は確かにこう言ったね。『僕らの列車』と。
なら待とう。いや待つしかないだろう。
君の望む理想の遠くへ僕も連れて行ってくれるというのだから。
僕は君の好意を喜んで受けよう。君が僕の好意を受け入れてくれたのと同じように。
青い空に白い雲。僕も君の隣に横になり空を仰ぐ。
蝉の鳴く声がする。ジィーッジィーッとせわしない。
昔は7日だけの命と切なくなったものだが。今考えると地下で幼虫として生きている。
それを知ってホッとしたがそれと同時にまた悲しくなった。
僕らの仰ぐこの綺麗な青空を七日しか見れない。
いやしかし、仰げるだけさいわいなのか。
「けれども本当のさいわいとはなんだろう」(宮沢賢治:銀河鉄道の夜、ジョバンニ)
僕の考えを見透かしたように君が笑いながら言う。
「そんな事はどうだっていいのさ」
君が続けた。片手を大きく空へ向け伸ばす。
「---僕たち一緒に行こうね」
そう言いながら君から空へと目線を移す。その瞬間
聞こえるはずのない列車の音。ありえない。
君を見ると嬉しそうに笑いゆっくりと整った唇を動かした。
『来たね。』
その本当の意味を僕は解っていなかった。
一度目をつぶり10秒数える。君と行く覚悟をもう一度。
『大好きだよ。愛している。サヨナラ。』
ばっと目を開く。もう列車の音も…そして君もいなくなって居た…。
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