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幸せ
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「……え?」
聞き間違いかと、思った。
まさか、あの佐木が。思わず自分の耳を疑った。だけど、嘘じゃないと佐木の言葉が証明してくれた。
「ちょうど小腹が減ってたんだよ」
そう呟いて倉橋に視線を投げかける。
「なんだよ、固まってないで早く来いよ。」
ベンチの隣を叩きながら、倉橋をせかす。その声にぎこちなく返事をして、急いで佐木の隣に向かった。
(どうしよう。距離が、近い)
どっちにしようかな〜と選ぶ佐木の声が真横で聞こえる。座ったはいいものの、肩と肩が触れ合いそうな距離に緊張してしまう。
「俺、こっちにする」
そう言って彼は、倉橋の本命、ポタージュ味をセレクトした。倉橋は、一瞬はっとしたがすぐに表情を変え、じゃあ僕はこっちで、と控え目に言う。
その様子を見て、ニヤリと笑う佐木。
「お前ホントはこっちがいいんだろ?」
袋の端を摘んで、ユラユラ揺する。
なんで分かったの?と驚く倉橋に、顔見りゃ分かるよと応えたあと、袋を開け、ポタージュ味のうまい棒をそのまま倉橋の口に突っ込んだ。
「ん、んぐっ!」
「お前が買ってきたんだ。好きな方食えよ」
俺こっち食うから。そう言って倉橋の手に握っていた明太子味を強引に奪った。
「うまいか?うまい棒だけに。」
口いっぱいに詰め込まれてうまく喋れないので、ブンブンと首を縦に振った。それを見て、なんかマヌケっぽいと笑う佐木。
望んでいた状況ではあったけれど、本当に良いのだろうか。こんな幸せなことがあって。
今まで耐えてきたから、神様が今日だけ特別にご褒美をくれたのだろうか。
夢のようだと、そう感じる反面、佐木への気持ちを諦めるタイミングを完全に見失ってしまったなぁ、とも思った。
でも今は、それでもいいや。
目の前にあるこの幸せを心いっぱい感じていよう。そう思えた。
二人揃って、ベンチでおやつタイム。
その途中。
「そういえばさ、俺が泣いてたとか、誰にもいうなよ」
可愛らしい発言に思わず笑みが溢れる。
それを見て、笑うんじゃねーよと、むきになる佐木。
「ちょっと情緒不安定だったんだよ」
「そうなの?」
「…最近おかしいんだ。」
「いろいろ…ストレスたまってたの」
「かもしんない」
初めて弱みを見せてくれた。そう思うと、言いようのない喜びに体が震えあがりそうだった。
「そう言えばさ、」
そっぽ向きながら佐木が気まずそうに話しだした。
「最初に、話しかけてきただろ。弁当食べようって。俺に」
静かに話すその声に、黙って頷く。
「さっきも言ったとおり、同情されてるとおもったんだよね」
「俺、こんな性格だし皆から嫌われてるし。どうせバカにしてるんだろって」
してないよ!とつい反応してしまう。
「僕、ずっと憧れてて、仲良くなりたかったんだっ、だから…」
その言葉に佐木は頬をかきながら、それさっき聞いたから、と落ち着いて返す。そして眉尻を下げながら不安そうに言った。
「嘘じゃ、ないよな」
倉橋は自分の真っ直ぐな想いを込めて
「嘘じゃないよ」と、答える。
本当に?と何度も確認をする佐木に対して突き放す事などせず、何回聞かれても、本当だと何度も答えた。
「嘘付いたら、殺すからな」
殺す、という、攻撃的な言葉とは裏腹に、佐木は未だに自信なさ気な顔をしている。
「嘘つかないから、殺されないもん」
そう言ってニッコリ笑う倉橋。
そのぷっくり膨らんだほっぺたを佐木は、軽くつねって笑った。
「うっせー。ドMのくせに」
「そ、それは違うってば!勘違いだよ!」
「何処が違うんだよ、つねられてるのに嬉しそうじゃん」
からかいながら、ニヒヒと笑う佐木。
それから二人は。暗くなり始める空を見ながら色んな事を話した。
好きな食べ物のことから、学校のこと。引っ越してきてから住んでいる家が、ボロくて汚くて嫌だとか。他愛もない話。
その途中で、佐木の頬に出来ていたアザについて質問したが佐木は言葉を濁したので、その時はあまり深くは追求しなかった。
しばらくして。
「あ!やっべ!もう、真っ暗じゃん!俺、帰るわ」
いつの間にか、あたりが暗くなっていることに気が付いて、急に立ち上がる。
楽しい時間は過ぎるのが早い。
またな、と言い残して急いで帰る佐木の手には、コンドームの箱が握られていた。
「そうだ!コレ、今度金返すから」
「あ、うん」
嫌な想像が頭をよぎる。もしかしたら今から誰かとーー。その光景が頭に浮かびそうになり思わず首を振る。何も、考えないようにしないと。先程の幸せな気持ちのまま1日を終わりたい。
「ま、またね!いっぱい話せて、良かった」
倉橋のその言葉に掌で合図したあと、そのまま駆けていった。
最後の最後で複雑な気分だけれど、まさか今日憧れだった佐木と、こんなに話せるようになるなんて思っても見なかった。本当に夢みたいな時間だった。
今まで、こんなに話したことなかったし、それ故に初めて気付いたことも沢山あって。
佐木の喋り方や癖。笑い方。新しい発見だらけだ。倉橋にとってその全て、どれをとっても魅力的だった。
別れたあとも、ずっと佐木の事を考えていた。
(明日も学校で、こんな風に話せると良いな)
そう思いながらひとり家路についた。
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