アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
ほしみっつ⑥
-
倉橋は、その時の俺にとって、サンドバッグみたいな存在だった。
校舎の裏。
聞こえるのは、骨と骨がぶつかる鈍い音と、すすり泣く声。
ひと目のつかないところに呼び出しては、小刻みに震える背中を何度も何度も踏みつけて、体中に無数のアザをつけた。
倉橋の口から小さな声で時折、ごめんなさいと謝る声が聞こえた。
沢山ひどいことをした。
当たり前のように、毎日毎日。
それなのに、倉橋はいつでも優しかった。
遠目からでも目が合うと、はにかみながら微笑んでみたり。
体調が優れなかった時、ちょっとフラついただけなのに大袈裟に心配してきたり。
俺がその眼差しや、優しさに応えることなんかないのに。
繰り返される暴力に怯えながらも、そうして心だけは寄り添うように纏わりついてきた。
その優しさを知っていた。
今だって、そうだ。
あんなに傷つけたのだから、嫌われて当たり前のはずなのに。こうして俺のそばにいて、俺の話を真剣に聞いてくれる。
邪魔なプライドさえなければ、もっと上手くやれたのに。倉橋にあんな酷いことしなくても良かったのに。
今まで何度も何度も突っぱねてきた優しさに、俺はいつか素直になれるのだろうか。
もし、そうなれたら。
全部やり直せるだろうか。
今まで失ってきたもの全て、取り返せる日がくるだろうか。
家族の事。学校の事。どうでもいい、と嘯いて背を向け逃げてきた事、全てに向き合えるだろうか。
「なぁ、倉橋」
「…ん?」
「…俺がもっと、お前みたいに、素直だったらさ」
「…うん」
「変わってたかな。何か」
そう口にしたものの、言ってすぐに後悔した。
自分語りなんて好きじゃないし、こんな思考回路、俺らしくない。
笑われるかもしれない、と思ったから。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
74 / 79