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理想⑤
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それなのに、期待してしまった。
夢を見てしまった。
無謀だった。
殴られるのかと思い、ギュッと目を閉じ、歯を食いしばった。身体が強張る。
しかし、その後、僕の身体に痛みが走ることはなかった。
かわりに、強く掴まれていた胸ぐらが開放された。
急にぱっと手を離され、思わず足元がふらつく。
「あ、う…」
殴られ、なかった…?
そっと目を開けると、未だに鋭い目つきをしたサキくんが、目の前にいた。
「何も知らないくせに。いちいち決めつけんじゃねぇよ」
彼はポカンとしている僕にそう言い放ったあと、背中を向け、振り返ることなく廊下を進んでいった。
「ま、待って……!」
「ついてくんな。お前なんか、もう知らない」
遠ざかっていく背中を追いかけようとした時。
「うあっ!!」
ドテッと漫画のような音を立てて僕は派手に転んでしまった。鈍い痛みが膝やら腕やらに響く。
「…い、いてて…」
じんわりと目に涙が浮かんでくる。
あぁ、どうしよう。
追いかけたいのに。
痛みで直ぐには立ち上がれそうにない。
サキくんの言った言葉が頭の中でこだまする。
『お前なんか、もう知らない』
あぁ、そんな。
サキくんが、行ってしまう。
今、追いつかなければ、
きっと、もう二度会えない気がした。
一緒にお弁当も、うまい棒も食べれない。向かい合って喋ることも、冗談を言って笑う事も、出来無いような気がした。
この数日間、神様がくれた夢のような時間が、全て嘘だったように感じる。
「…や、だ…。待って、サキく…」
もう、ダメだろう。追いかけても、追いかけても、サキくんはどんどん離れていく筈だ。
僕の方など、振り返ることもなく…。
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