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プロローグ
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有馬、紫苑の花言葉、知ってるか?
ふと、彼の声が聞こえたような気がして立ち止まった。
目を瞑り、耳を澄ます。彼の声を聞き逃さないように。
けれど聞こえてくるのは、ナースコールや患者、医療従事者達の足音ばかりで、有馬はふっと息を吐いた。
有馬がこの病院に通うようになってもう1年近く経つ。
すっかり病棟の看護師達にも顔を覚えられ、最近では声をかけられない日はないくらい親しくなっていた。
「有馬さん、お疲れ様です。今日もお見舞いですか?」
親しくなったといっても、名前までは覚えていない。
チラッとポケットについてある名札を見て、有馬は軽く会釈をした。
「松田さん、お疲れ様です。ちょっと仕事の合間にお見舞いにきました」
答えると松田は顔をほんのり赤くして、そうですか、と言い微笑んだ。
可愛らしい顔立ちだと思う。
昔の自分であれば連絡先を聞いていたかもしれないなと有馬は心の中で思った。
「可愛らしい花。…そういえば、今日は先客がきてますよ」
松田はそう言って、ある個室を指差す。
これから有馬の向かう病室だった。
「…先客」
「ええ、あんまり見ない方。目つきがきつくて、ちょっと恐そうな男性でしたよ」
松田の言葉に有馬は思わず笑ってしまった。
思い当たる人物は2人。小学校からの付き合いである男か、生意気な後輩。
さて、どっちだろうか。
「ははっ、ありがとうございます。たぶん、知り合いです」
笑顔で松田と別れ、目的の病室へと足を運ぶ。ナースステーションに近い個室なので、それほど時間はかからなかった。
602号室。名前はない。
コンコン、と2回ノックをすると、病室の中から「はい」と低い男の声が聞こえた。
なるほど、これは確かに恐がられても仕方のない無愛想な返事だと有馬は思いながら、病室のドアをゆっくり開けた。
病室の中のカーテンを引くと、ベッドに横になった青年とベッドサイドでパイプ椅子に腰掛けている男がいた。
松田が言っていた先客とは、有馬と小学校からの付き合いである市川のことだった。
「やっほー、いっちゃん。来てたんだねぇ」
「うるせぇ、有馬。そのヘラヘラ顔、どうにかなんねぇのか」
「ひどい!もともとこういう顔だって、何回言ったらわかるの!!」
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