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新しい風。3
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「もう、いつまでふくれてるの。」
灯真の部屋で二人になって、不機嫌な主をなだめる。
「別に。」
「灯真さん。子供じゃないんだから。」
「悪かったな。子供で。」
雫が伸ばして来た手を振り払ってふいと向こうをむいてしまう。
雫はその背後から、腰のあたりをいきなり抱きすくめた。
「!」
そのままベッドに腰掛ける。灯真は雫の膝に座らされるかっこうになった。
「なにするんだ、離せ!」
「子供だから。だっこ。」
「くっ!バカにして!」腕をふりほどこうとするが、シートベルトのように
がっちりホールドされて身動きできない。
シャツ越しの背中に雫の唇が押し当てられるのを感じた。
「かわいそうな女の子に、やさしくしてあげるくらいの余裕はあるでしょう。」
「・・・離せよ。」
「いい子だから、僕の話を聞いて。灯真さん。」
子供扱いされて腹立たしい。
それなのに雫に抱きすくめられていると体から力が抜けてしまう。
「なにが、不安?」静かに尋ねられる。
「不安なんかない。気に入らないだけだ。」声が尖る。
「女の子だから?」
「・・・・・。」
「女の人がまだ怖い?」
「怖くなんかない。・・嫌いなんだ。」
「でも、女の子に産まれたのは、あの子の責任じゃないよ。」
「・・・・。」
「たった1年。仲良くしてあげよう。ね?」
背中に吐息がかかる。
「お前、あの子が気に入ったのか。」声に猜疑心と嫉妬が混じる。
言ってしまってから、ひどくみっともない気がして灯真は唇を噛んだ。
しばしの沈黙のあと、雫の唇がまた灯真の背に触れた。ぴく、と体が反応する。
「灯真さんのそういうところ、ほんとに子供。」
雫の、思いがけず冷めた声に、カッとなった。
「しかたないだろ・・・!」声が震えた。
「しかたないだろう。見えないんだよ!君たちは一目でどんな相手か
判断できるかもしれないけど、僕は少し声を聞いただけだ。」
「灯真さんいつも、声の出し方や話し方で、相手のことがだいたいわかるって。」
「他人なら冷静に聞ける。ビジネスの相手なら推し量りもできる。
・・・でも、でもいきなり妹だなんて!」
自分でも驚くくらい大きな声が出た。
だが雫はひるまずに彼を抱く腕に力をこめた。
「やっぱり、動揺するよね。」
「そんなんじゃ・・・!」
「僕の目は、こういうときのためにあるんだよ。」
静かな雫の声が胸にしみた。
「灯真さんのかわりに、僕がちゃんと彼女を見たよ。」
そう、目を開けば勝手に情報が飛び込んでくるわけではない。
けれど、隣の雫に尋ねれば、見たいものは全部彼がかわりに見てくれる。
たしかに僕は、はじめから彼女を見ようともしていなかった。
大きくため息をひとつついて、灯真が口を開いた。
「どんな・・・どんな顔だった?」
「少し灯真さんに似てる。けど、派手さはないね。全体にこじんまりしてる。
あ、でも目はくりっとしてたよ。」
「髪は?」
「長く伸ばして・・後ろで束ねてた。柔らかそうな髪だった。」
「服は?」
「地味だったね。ファッションセンスは、たぶん僕とおなじくらいだと思う。」
ふ。はじめて灯真の口元がほころんだ。
「・・・とても不安そうな、子犬みたいな目をしてたよ。唇をへの字に曲げて。
おかあさん、まだ若いのに亡くなったんだね。」
幼くして母を失ったのは、灯真も同じだった。
ようやく美風の境遇に、気持ちが寄り添った。
「明日・・・明日話してみるよ。」
「うん。ありがとう。」雫がまたきゅっと灯真を抱きしめた。
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