アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
萌(きざ)し 3
-
長瀬は傷口を丁寧に診て、消毒のあと、毒消しの薬を塗ってくれた。
「すぐに毒出ししたから大丈夫だと思うけど、夜中に熱っぽくなったりしたら
わたしの部屋に知らせなさい。」
「はい。」
「痛かっただろう。かわいそうに。」優しく言われてつい、強がった。
「大丈夫です。子供のころからおてんばだったし。」
「頼もしいね。」微笑む長瀬に礼をいって部屋を辞そうとしたとき、
背後で声がした。
「よかったよ。灯真じゃなくて。」
傍らの雫と、美風は思わず顔を見合わせた。
「はははははは。」
膨れっ面の美風の話に、灯真は声をあげて笑った。
めったにないことだったので、雫はおどろいて主の顔をみつめた。
「おにいさん!笑い事じゃないです!櫂さんだけならまだしも、
長瀬先生まで!酷すぎます!!」
「虫さされで寝込んだのは子供の頃だよ。」灯真が笑いながら言った。
「それにしても悪かったね。レディーに対して失礼千万だ。」
「そういうおにいさんも笑いすぎだし。」
「美風ちゃん、今ほっぺたが提灯みたいになってますよ。」
美風のあまりの膨れように思わず雫が実況してしまう。
「はははははははは。」
「もうっ!!櫂さんっ!おにいさんっ!!」
ひとしきり笑って、目尻の涙を拭うと、灯真はふっと顔を上げ、おだやかな声で
「美風、こっちへおいで。」と妹の名を呼んだ。
「は、はい。」
怪訝そうな表情で近寄って来た彼女に、腕を伸ばす。
雫がすっとそばにきて、灯真の手を、美風の頬に導いた。
「おや、もう膨れていないんだね。」
息をつめて固くなる美風の顔を、白く細い指がなぞる。
輪郭を確かめ、額、まぶた、鼻梁、指先の腹で優しく繊細に、美風をたどる。
ふいに泣きそうになって、目だけ動かして雫を見た。
マスクで口元は見えなかったが、目で、雫が笑っているのがわかった。
美風もつられて口角をあげる。
その唇にそっと触れて、灯真も微笑んだ。
「口元が僕に似てる?」
「ええ、よく似てます。」
雫の言葉に頷いて、最後に髪をゆっくりと撫で、その手を美風の両肩に置いた。
「やっぱりきょうだいだね。」
すっと自分から離れてゆく手を、思わず美風は掴んだ。
「おにいさん、わたし。」こらえていた涙が頬にこぼれた。
「ん?」
「・・・・・ありがと。」
灯真の手を握りしめて、それだけ言うと美風は泣き出した。
わたしに触れてくれて。
わたしを認めてくれて。
ありがとう。
今日はじめて、あたらしい家族が出来た、そんな気がした。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
6 / 27