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影の想い 1
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灯真と雫が、体をあえて離して向かい合わせに横たわるベッド。
先ほどから、触れあっているのは潤んだ舌先の一点のみ。
時折小さく蠢かせるその敏感な箇所でお互いのすべてを感じ取る。
こすりつけ、少し離れ、またそっと触れる。
小さな刺激が何倍にもなって体の中心を走り抜け、痺れのような恍惚を産む。
この官能に突き動かされて、先に動いたほうが負け。
時折ふたりで興じるゲームだった。
灯真は余裕の表情でその快感をたのしんでいるようだったが、
雫のほうはすでに眉間に皺をよせて焦れた様子を見せていた。
ついに大きな吐息とともに雫が動いた。腕を伸ばすと灯真を抱きすくめ、
その甘い舌を飲み込んだ。
「ん。」
おあずけを解かれた犬のように灯真を貪り、吐息とともにようやく唇を離す。
「雫の負けだ。」
灯真がにやりと笑い、雫が「ああ。」と呻いて枕に顔を埋めた。
「ずいぶん我慢強くなったんだね、灯真さん。」
「そうかな。」
「もしかして、僕の体に飽きちゃった?」雫の問いにふふんと鼻で笑う。
本当は雫にもわかっていた。灯真のこころに余裕ができたのだ。
以前は暗闇のなかでひとりぼっちだった。
雫というちいさな灯りを消さないように必死だった。
いつもいつも飢えて、求め続けていた。
外に出て、人と会うようになり、そして美風があらわれた。
先日など、灯真の進路にあった椅子を、さりげなく美風がどかしたことがあった。
灯真はその気配ににっこり笑って、「ありがとう、櫂」と言った。
美風と二人で眼をみあわせて黙っていたので灯真はそのまま気付かなかった。
灯真さんが僕と別のひとを間違えるなんて。
ほかの人ならばショックだったと思う。
だが、美風ならいいか、と思えた。血をわけた妹なのだし。
これからもずっと仲良くしてほしい。
笑い合う二人を見ているのはとても幸せだった。
灯真の世界が広がりつつある。それはとても喜ばしいことだった。
けれどそれが、雫のなかで自分の立ち位置を危うくもしていた。
あの事件以来、雫がもっとも信用できないのが、自分自身だった。
怒りに我をわすれて、何をするかわからない。自分はそんな人間だと
そら恐ろしくさえ感じる。
灯真を思う気持ちは少しも色あせないけれど、だからこそ離れるべきという
気持ちも芽生える。ほんとうに、そばにいるのがこの人のためなのか。
そして、灯真と離れて生きる自分を想像して戦慄し、
かえって激しく灯真を求めて燃え上がってしまうのだった。
影は。あるじなしでは存在などできないのだ。
「では、ウィナーのご希望を。」雫の言葉に灯真はゆったりと答えた。
「じゃあ。全身100カ所にキスを。」
「イエス、ボス。」
雫は体をずらして灯真の片足をすくいあげると、胸に抱えてまず膝頭に口づけた。
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