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影の想い 3
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「櫂より、先生のほうが見立てがいいかな、やっぱり。」
「え?なんのこと?」
「ほら、今度のパーティ。美風も連れて行こうと思って。ドレスを。」
「ああ、いいね。藤色とか似合いそうだ。」
灯真の部屋で、ふたりの時間。
「おや、雫の口から色の名前が出るなんて。」
灯真がからかうと、雫は少し傷ついたように、「ちょっとくらいはわかるよ」
と言った。
「ねえ。」
灯真はふと、前から気にかかっていたことを尋ねてみることにした。
「ん?」
「前に、その黒尽くめは喪服なのかと聞いたら、それだけじゃないって、言ったね。」
「ああ・・・、そうだっけ。」
「ほかにも理由があるのか。」
雫はしばらく黙っていたが、灯真がさらに促すとようやく口を開いた。
「・・・・自分が影だってこと。忘れないように・・・かな。」
「影?」
「そう。」
「どういう意味だ?」
「名前を捨てて戻って来てから、僕は影なんだよ。」
「しずく。」
「僕は何ものでもない、ただの影なんだ。灯真さんの。」
「・・・・。」
「やっぱり、月日がたつと、つい忘れそうになるんだ。ついうっかり、
将来のことを考えたり、未来に夢をもったりしてしまいそうになる。」
「それの・・何がいけないんだ。自分は・・・もう死んだ人間だとでも?」
「生きてるよ。ちゃんと。でも櫂っていう、借り物の人生だけどね。
この偽りの人生に、将来とか未来なんかないんだ。
ただ、灯真さんによりそう、それだけ。」
「それは・・・。」思わず声が震えた。
「誤解しないでね。これは自分で選んだ。僕が望んだことだから。」
「しずく、でも・・。」
「僕は。灯真さんの影でいたいんだよ。」
雫の声にも言葉にも、嘘は見当たらない。きっと本心なのだろう。
あの、遠く離れて暮らした地で、自らの顔を焼く時にそう決めた。
けれど灯真はその言葉に打ちのめされた。
雫の人生なんて、今まで考えた事なかった。
今の二人が幸せならば、それでいいと思っていた。
雫の心を、少し遠く感じていた、その正体がわかった気がした。
自分から遠いのではなかった!
そもそも希薄であやうい存在だったのだ!
こころ踊る春も、彩りの秋も。
その日に身に纏う、色彩すら選ばない。
そんな自己否定を日々くりかえして。
影になろうと、影でいようとしていたのだ。
こんなに大切なひとの人生を奪った上に、自分の幸福が成り立っていたなんて。
このままでほんとうにいい?ほんとうに?
少年の頃のように、ふたりでいられれば、今さえ幸せならそれでいいなんて、
安易な考えは持てなかった。
この先、自分がひどく後悔することになるような、そんな予感が灯真にはあった。
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