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影の想い 5
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雫が灯真の部屋を訪れると、彼は厚紙のようなものを膝において、
表面を指でなぞっていた。
よくみると裏側から針でついたような穴が開いていて、周囲が少し
盛り上がっている。だが点字にしてはずいぶんランダムで間隔が広い。
「それは?」
「ん?ああ、美風が持って来た。・・・この間、櫂さんと見た星が綺麗だったので
おにいさんにも見えるように作ってみた・・・とか言ってたな。」
「あ・・・。」そう言われてはじめて、星座のかたちに気付いた。
よく思いついたものだ。無意識に口元が緩んだ。
美風。やさしい子だ・・・。
灯真のかたわらにしゃがむと、彼の手をとって星座をなぞる。
「そう、これがオリオンの三ツ星。そこからまわりによっつ・・・。」
「美風がさっきおなじようにしてオリオン座を教えてくれたよ。」
灯真がおかしそうに言った。
「そうなの?」
「そのとき、神話も話してくれた。オリオンは、アポロンの妹の恋人だそうだ。」
「へえ、そう。」
「雫。」
「ん?」
「美風はお前が好きなんじゃないかな。」
「え。」
灯真はふふ、と笑った。
「もっとも、妹にお前を譲る気はないけどね。」
顔を寄せて来る灯真に軽く口づけながら、雫の胸は少し痛んだ。
あの時の彼女の涙の意味が、違って見えて来たから。
自分には決して応えられないその想い。
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