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試練 5
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ずいぶん長い時間別室に連れていかれていた雫が美風のもとに戻ってきた。
顔だけではなく、髪やシャツの胸元にまで、べっとりとしたものが
こびりついているようだった。
美風からかなり離れたところに座り込んだ雫は、そのままごろりと
彼女に背を向けて床に転がった。
「櫂さん。」躄り寄ろうとする美風を「来ないで。」と制する。
「今僕、すごく汚いから。 そばに来ちゃだめだ。」
美風はかまわず近づいた。つんと生臭い匂いが鼻孔に来た。
「さすがに飲むのはイヤだったから外したら、あっちこっちにかかっちゃった。」
背をむけたままそう言うと、ははは、と小さく笑って、
「ああ、高校生にこんなこと・・・。ごめん。」と謝った。
「櫂さん」美風はもう、泣きながら名前を呼ぶ事しか出来なかった。
なにがあったか、説明されなくてもわかる。胸がキリキリと痛む。
私の。私の身代わりになったんだ・・・そう思うだけで体が芯から震えた。
しばらくして犯人の一人・・・雫を蹴り上げた男が来て、黙って美風の後ろに回り、
さっと目隠しをした。
「ひっ。」美風が身を固くして小さく叫び、雫ががばりと半身を起こした。
「釈放だってよ。」
つまらなそうにそう言い捨てると、美風を立たせて出口のほうにひっぱっていく。
「櫂さん。櫂さん。」泣きながら自分を呼ぶ彼女の声が遠ざかるのを
見届けて、雫は大きくため息をついた。
車のエンジン音が聞こえ、それも次第に遠ざかっていく。
出来る事はやった。
灯真さん、これでよかった?
あとは・・・・祈るだけだ。
美風が無事に帰れますように。
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