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試練 7
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駅前の拉致された場所で、目隠しと拘束を解かれた美風が車外に放り出され、
自力で屋敷に戻って来たのはさらわれてから5時間後だった。
泣きじゃくるばかりの美風を長瀬にまかせて、灯真は電話の前に陣取った。
コールが鳴ると同時に受話器をあげる。
耳にあてるなり相手の怒声が響いた。
『なんなんだおまえら! ふざけやがって!!』
「・・・・・どうした。わかるように話してくれ。」
『こっちは言われたとおりにしてんだろうが!』
「ああ。妹は確かに帰って来た。・・・なにがあった。」
大きな舌打ちが聞こえた。『あいつ舌噛みやがった。』
その言葉を聞いた瞬間、
ふっ、と意識が遠のきそうになって体がぐらついた。なんとか踏みとどまる。
「・・・・死んだのか。」自分の声なのに、どこか遠くから聞こえるような。
『・・・・なんとか生きてるよ。またやったら面倒だからタオル噛ませて縛り上げた。
・・手間かかる化けもんだ。』
「それはすまない。とりあえず死なせないでくれ。」
雫。ああ。生きていた。安堵のため息を呑み込んで平静を装った。
体の震えが声に響かないだろうか。
灯真は空いているほうの腕で、強く自分を抱いた。
『くっそ。もっかいしゃぶらせてやろうと思ってたのによ』
「・・・なんだと?」
『あんた、ずいぶんいいおもちゃに仕込んでんじゃねえかよ。』
いやらしい含み笑いが灯真の耳にねっとりとまとわりついた。
いったい雫になにをしたんだ!大声で問いつめたい衝動を、灯真はぐっと堪えた。
美風を無事に戻すために雫が払った代償。
無駄にする訳にはいかない。断じて。
やつらの挑発には乗らない。大きく息を吸うと話を戻す。
「下衆な会話に興味はない。金はどうすればいい。」
『ちっ。お高く止まりやがって。気に入らねえな。・・・・。
まあいい。金はお前が一人でもってこい。場所は・・・・』
「なんだって!」長瀬が声をはりあげた。
「君が一人でって、そんな無茶な!!」
「向こうは約束を守って美風を返してきた。ここは従うべきだ。」
「しかし、灯真!」
「先生。」
灯真は長瀬の頬に手のひらをあてた。灯真の最上の愛情表現。
長瀬の胸が詰まる。
「言えなくなったら嫌だから、今言っておくね。
今までほんとうにありがとう。そしてごめんなさい。」
「灯真?」
「ずっと、迷惑ばっかりかけちゃったね。」
「・・・・・。」
「もし。もし僕が戻らなかったら。また先生に迷惑かけるけど」
「よしてくれ灯真。」
「お願いします。家のこと。会社のこと。父のお尻ひっぱたいて、ちゃんと
させて。従業員が困らないように。そして・・・美風のこと。」
「灯真。・・・。」長瀬が耐えられない、といった表情でかぶりを振る。
「大丈夫、もしもの話だから。」長瀬の体に腕をまわして、優しく抱いた。
「先生。だいすきだよ。あなたがいたからここまで来れた。感謝してる。」
耳元でそう囁くと、さっと体を離して顔をあげた。
「白杖を!」
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