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光さす場所へ。 6
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長瀬と三人で、車のシートに寝かせる。
雫は意識があるのかないのか、朦朧としていた。
病院に向って走る車のなかで、出来る限り汚れを落としてやる。
さっきからずっと泣きじゃくっている美風に、灯真が静かに語りかけた。
「美風。今から大事な話をする。よく聞いてくれ。」
「・・・・はい。」
「櫂は・・・、本当の名前は雫、という。」
「はい・・。」
先ほど兄がそう呼ぶのを、美風も聞いていた。
「雫は10年前に、僕をレイプしてた継母を刺して・・・死なせた。」
「ひくっ。」返事のかわりのように美風がしゃくりあげた。
「それから素性を隠して、僕のそばにいたんだ。顔も・・そのために。」
みずから焼いたと。
美風は黙って、眼をまんまるに見開いている。
あまりに衝撃的な告白に、返す言葉がない。
「今度のことで、雫の正体はきっと警察にわかってしまうと思う。」
「・・・・・。」
「少しの間、離ればなれになるかもしれない。」
「・・・・・。」
「僕もあるいは、なにか罪に問われるかもしれない。ずっと隠して来たから。」
「灯真それは・・・。」長瀬が運転席から割って入った。
「先生はだめ。先生はなんにも知らない。千田っていう人にも迷惑がかかる。
それに家を守ってもらわないと。みんな捕まったら困る。」
「だが・・・。」
「お願い。雫と僕、二人の事にしておいて。」
「・・・・・。」
「わたし・・。わたしどうすれば・・・?」
ようやく、美風が震える声で尋ねた。
「あの家で、待っててくれないかな。」
「待つ・・・?」
「雫が戻ってくるまで。僕と一緒に待ってて欲しい。」
「ずっと、居てもいいの?おにいさんと。」
シートに臥せっていた雫の腕がぴくりと動いた。
かすかに上に持ち上がる。
美風がその手を下から掬い上げるように支えて、もう片方の手で
灯真の手をとった。
三人の手がそっと重なる。
「櫂・・・雫・・さん。」
「美風」
「うん。」
ただ一言、そう応えた美風の声音に、灯真はにっこりを微笑んだ。
そして雫と重ねた手に力をこめた。
「・・・・ほんとは警察に知らせるつもりはなかったんだ。
自分だけで・・・お金でなんとかしようと思ってた。
でもお前が舌を噛んだって聞いて・・・・このままじゃいけないと思った。
このままお前を死なせたら、だめだって。」
灯真の眼から涙が零れた。雫の頬にぽつん、と落ちる。
「雫・・このまま、影のままで死んじゃだめだ。お前はお前を生きなきゃ。」
「・・・・・。」
「離れるのが辛くて、答えがなかなか出せなかった。でも、誰だって、
いつなにがあるかわからない。今回それを思い知らされた。
一日でも早く、雫の名前を、お前の本当の人生を取り戻さなきゃだめだって。」
雫の眼からも、涙が流れていた。
「僕なら大丈夫。美風が・・・いてくれるから。お前が帰って来るまで待ってる。
それに、数年待てるくらいには、大人になったからね。
だから雫も・・・耐えて欲しい。」
「おにいさんと一緒に待ってる。おにいさんのことは心配しないで。」
美風のその言葉に、雫が小さく頷いた。
「もう一度、生まれ変わって帰っておいで。雫として。」
灯真のその言葉に、雫は微笑んでもう一度頷くと、ゆっくり眼を閉じた。
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