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エピローグ
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冬の夜空を、灯真と美風、二人が見上げている。
美風は針で穴を開けた厚紙を頭の上に掲げて、もう片方の手で灯真の手を握った。
自然、体をくっつける姿勢になる。
だがもう、灯真もそのことをまったく気にしていなかった。
空の、オリオンの方角に厚紙を合わせる。
「ここ。おにいさんわかる? ここにオリオンがあるの。」
「うん。」
空に伸びた美風の手が、灯真の指先を導く。
灯真の脳裏に、漆黒の空に輝くオリオン座が描き出されていた。
「本当に見えてるみたいだ。」
「ほんと?よかった!」
「腕、だるいだろう。もう下ろしてもいいよ。」
「でも」
「大丈夫。ちゃんと見えてる。ほら、あのへんが牡牛座だろ?」
「あ!そうそう!すごいねおにいさん。」
「シリウスは見える?」
「うん。こっち」灯真の手をとってシリウスの方角に導く。
「おにいさん・・・。」
「ん?」
「雫さんが戻って来たら、3人でまた見ようね。」
「・・・・ああ、そうしよう。」
厚紙の上に、再びふたりで指を重ねた。
ぽつ、ぽつ、ぽつ、と開けられた、オリオンの三ツ星の上。
こんな風に3人並んで歩ける日が、きっと来る。
「美風、雫のことが好きだったんじゃないのか。」
「えっ?」
声が動揺をあらわにしていた。
「なんで?」
「そんな気がしていたが・・・。」
「うん・・・。まあ・・。でも、今は違うっていうか。」
はっきりしない口調に灯真が眉をひそめた。
「昔の事件のことを聞いて、気がかわったのか。」
大きくかぶりを振る気配があった。美風の髪が揺れている。
「違うの。そうじゃなくて。」
美風は灯真のほうを向いたようだった。あたたかい吐息に触れる。
「わたし、上手く言えないけど、3人がいい。今は、3人がいいの。」
「うん・・・。なんとなく、わかるような。」
「おにいさんのことが好きな雫さんが好き。
雫さんのことが好きなおにいさんが好き。」
「うん。」灯真が笑った。「とてもありがたい申し出だね。」
「でしょう。それにね、おにいさんと張り合って、わたし勝てる気がしない。」
はははは。今度は声をあげて笑った。
「大丈夫。美風は充分魅力的だよ。」
「ほんと?」
「ああ。」
美風がそっと灯真の肩に頭を寄せた。
灯真が少しためらってから、美風の背に腕をまわした。
「きょうだいでこういうの、おかしくないのか。」
ちょっと不安になって美風に尋ねた。
「おかしくないよ。だって寒いもん。」
「そうか。」
「うん。」
二人で示し合わせたように、また空を見上げる。
目には見えないけれど、たしかにそこにある。
脳裏に浮かぶ悠久の星々の向こうに、愛しい人とまた暮らせる日々が、
灯真には見えた気がした。
おそらく美風の、そして今離れてすごす、雫のこころにも、見えているはず。
冬の星座が冴え冴えときらめく夜空が。
ふたりをやさしく見守るように広がっていた。
完
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