アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
走れない男
-
押しひしがれて貪られる。
意地があるから泣きはしないけど奴はただ、機械のように抽挿し、達してもわずかに身をふるわせるだけだ。
福富なら、少なくとも、吐息してくれる。
そしてつぶやくように、「すまない」と。
福富は俺を貪るのではなく、俺に変化をもたらすために現れた。
金城は違う。
こいつは俺を変えると言い切った。
おまえは今のままだと変われない。
これ以上早くもなれない。
だから俺はおまえを変える。
嫌がろうと抗おうと変える。
「小野田のことは、」
言いかけると、金城の、機械のような動きが一瞬止まった。
「何だ」
「小野田のことは一切変えようとしなかったくせによ」
憎々しく言っても、金城には全く変化はなく、同じリズムで俺の中を乱暴にかき乱すだけだ。
「あいつは変える必要がなかった。その時その時一番必要なことに、自然に気づけて自然に動ける、そういう奴だったからだ。おまえは違う。我という殻を強く張って、壊そうとする者を排除しようとする。それでは強くはなれない」
よけいなお世話だ。
俺は強い。
「強かったら、俺に組み敷かれたりはしていない」
かっとなり、身を起こす俺の唇を金城の唇が覆う。
拒む俺の唇を割って舌先が俺の口腔内を弄ぶ。
よせ。
嫌だ。
やめろ。
俺の頬をひと雫、涙が伝う。
でも。
金城のキスは甘く、俺をとろかす…
情けなくも俺は達し、放った。
金城の攻めは一晩中続き、俺は丸二日、自転車に跨がれなかった。
その朝俺はできるだけ早く寮を出た。
サイクルスポーツセンターへ行くつもりだった。
うちの大学は自転車競技部が充実していて、継続的にSSCを利用する権利を留保してもらっている。
金城のいないところで、バリ自由に走り回りたかったのだ。
久々のコース、久々のバイク、ことのほかペダリングも軽く、脚が楽々と回る。
体が自転車を欲している。
楽しくて、ただ楽しくて走った三周目、インターバルをとろうとする、見慣れた影に気がついた。
福富!
奴の大学も、ここと契約してたんだ!
思わず追った。
嬉しくて。
追いついて、いきなり背中どやしつけて、
「福ちゃん!」
と声かけたかった。
でもその前に福富はインターバルに入ってしまい、建物内へ入ってしまった。
中まで追うか…
迷ってる俺の視界を、新開が横切った
「寿一ー」
名を呼びながら同じ建屋に入っていく。
寿一。
何かが胸をかすめる。
寿一。
確かに新開は中学時代から、福富と走ってきた仲だ。
だから下の名前で呼ぶのもわかる。
不自然じゃないし、どころか、名字で呼び合う方が不自然かもしれない。
けど…
案の定、寿一は肉離れを起こしかけていた。
俺は医務室の寝台に寿一を座らせ、太ももからふくらはぎにかけての筋肉を、ゆっくりもみほぐしにかかった。
「つうっ」
寿一の眉間にシワがきざまれる。
危ないとこだったな。
癖になったら次のレース、辞退させられるところだった。
大学対抗はことほどさように、身体管理が優先される。
寿一にはきつく言っとかなきゃ。
そう思いながらもみほぐしを続けていると、寿一が目を閉じたまま俺に言った。
「荒北は…」
「?」
「俺を恨んでいるだろうか」
「何で」
「自転車の世界に連れてきておいて、俺はやつを置き去りにした。奴からすれば青天の霹靂だったはずだ」
「…」
「あいつは人間不信と自己不信の塊だった。そこから引き出したのは確かに俺だ。でも俺はそれをしておきながら、進学にあたって彼を置き去りにした。あいつは今、どんな気持ちでいるかと…」
寿一の言葉が止まる。
俺がキスで塞いだからだ。
唇を割り中へ舌を這い込ませる。
真面目な寿一は初め応じないでいようとしたが、長年の付き合いだ。
寿一の弱いところはすべて知っている。
拒む唇は徐々に半開きとなり、ついには寿一は立ち上がって、体を返して俺を組み敷いた。
そういうことなんだよ寿一。
確かにおまえは荒北の殻を割った。
だからといっておまえが一生、荒北の人生を引き回さなきゃいけない理由はないんだ。
荒北は荒北で、自分で人生を切り開いていかなきゃいけない。
だから俺はあの大学を勧めた。
そして奴は進学し、入学が決まってから、やつはそこに寿一が行かないことを知ったのだ。
怒り狂ったことは想像に難くない。
聞いた話によると、退学すると息巻いたそうだ。
でもやつは、今もってやめてない。
自転車競技も続けていると聞いてる。
金城が、面倒を見ているらしいとも…
そうなのだ。
熱い男ではあるけれど、あいつは一人では走れない。
だから寿一が駆り立てた。
いまは金城が駆り立ててる。
よく走る。
でもそれだけだ。
だから俺は寿一を奪い返した。
ほんとは俺が併走すべき三年間をあいつに貸してやってたんだ。
せっかく引き離しに成功したんだ。
もう誰にも貸さねえ……
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
2 / 40