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俺とうさぎと新開と。
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福チャン福チャン!
隼人だめだ。
どうしても抜けねえ。
ブレーキ自分でかけちまう。
スプリンターだってのに。
走れねえスプリンタ一って何の役に立
ってえっ!
何でぶつんだヨ。
うさぎのことだろ知ってるよ。
だからって…
ちっ。
みんなお優しいこって!
イライラした気分で校庭歩ってると、うさぎ小屋の方へいく泉田を見た。
人参を山ほど抱えてる。
あのチビうさぎのところへ行くのか。
何の気なしにあとを尾行(つ)ける。
やはりウサギ小屋に出た。
うさぎは山盛りの人参にビビッて、小屋から出てこようとしない。
「おいでうさ吉。おいしいよ」
「バカかてめー」
俺の声に戸惑うように、泉田は振り向く。
「荒北さん」
「こんなちっぽけがこんなでかいの食えるわけねーだろがヨ」
そのへんに生えてるタンポポの葉むしって、うさぎ小屋の網越しに差し出すと、うさ吉はふんふん匂い嗅いでから、もそもそと食ベ始めた。
「食べた!」
瞳輝やかす泉田に、何かイラッとしてしまう。
「ロのサイズに合わせてやれば、たいがいのもんは食べんだヨ」
人参一本取って折り、より小さい方を手のひらに乗せて差し出すと、それもモソモソ食べ始める。
「荒北さんうさぎ飼ってたんですか?」
「大昔な」
言いながら、苦い気持ちが上がってきた。
ぴょん吉とぴょぴょん。
可愛かったのにクソババアが、アレルギーに障るとかいって、業者に持ってかせた…
今頃は誰かの腹の中経由クソか土かになってるよな。
くそっ。
俺にとってもうさぎは痛い。
泉田とうさ吉放っぽって、自転車置き場へ足を向けた。
ビアンキが、俺に乗ってくれと待ってる。
新開はどこにいる?
ビアンキは言う。
多分…
ビアンキの言った場所に、新開はいた。
うさぎ母の逝った場所。
花を手向けてぼんやりしてる。
サーヴェロはすぐ横の、ガードレールに立てかけられたままだ。
(まだ立てかけられてたから良かった。横倒しだったら殴りとばしてるトコだ)
「いつまでもメソってんじゃねーヨ。ほれ乗れ。俺様が煽ってやる」
「煽られなくても走れる」
「右から抜くのと先行のときはだろ? けどいつも、自分の思う通りのラインとれるわけじゃねえだろがヨ」
「…」
「走れ。邪魔してやっから」
「靖友…」
「おめえはよオ、うさぎのことばっか考えてるみたいだけどな。おまえ殺してるのそれだけじゃねえからな」
「!」
新開の目が険しくなり、俺を睨むように凝視する。
おう。
憎め憎め。
メソメソされるよか憎まれたり、悪く思われる方がまだましだ。
「おまえがサーヴェロで飛ばすたびに、そのタイヤの下で山ほどアリンコとかバッタとかクモとかが死んでんだ。俺なんか飛んでるハチ轢いたことあるぜ。そーゆーの考えたら、ウサギだけ供養すんのちげーだろっ」
おれを睨んでいた目つきが、少し柔和に戻った。
戻ったどころか、少しこらえたかと思うと、いきなり笑い出したのだ。
「ンだよてめ」
「や。おまえけっこうイイヤツだなって思って」
「イイヤツじゃねえよ!」
何かまた腹が立ってきた。
「とにかく来やがれ。左抜き出来るよーになるまで、俺様が、しごいてしごいてしごきまくってやる!」
「やあん。ハヤト怖い~」
科を作った新開が、いきなりサーヴェロにとび乗った。
「抜かせないから大丈夫」
言いながらコースを走り出す。
いつもの稲妻みたいな走り。
幾分右には寄ってるが、いちおうフツーには走ってる。
「てめ! それ俺なめて言ってんだろ! こら待て一っ!」
追ってビアンキが俺を連れて行く。
サーヴェロに喧嘩売って先を争う。
それでいい。
今は走れ。
ただただ無心で走るんだ。
イイヤツみたいで腹立つが、俺も何かをしてやりたい。
福チャンのしてくれた半分も出来たら、俺も進歩って思えるからな。
加速する俺を押さえ込む、新開の技が冴えわたる。
慌てなくていい、ゆっくりでいい。
インターハイまではまだ間がある。
おまえは走れる。
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