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-白鳥side36-
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もう1人のアルバイトはレジ締めの作業に入っており、明ちゃんはタイミング良く客席で事務作業的なことをしていた。
私は静かな店内で、窓の外を見ながら涙を流し、鼻を啜る。流石にこの状況を見て見ぬ振りされたら心が折れそう……なんて思っていると、明ちゃんは血相を変えてこちらへ近づいてきた。これはチャンス。
「……お客様、どこか具合でも悪いですか?これ、良かったら使ってください」
明ちゃんは自身のポケットからハンカチを取り出し、私の両手をしっかり包んで持たせてくれた。
……ちょっと待って何このイケメン。私の知ってる可愛い可愛い明ちゃんは何処へ。荒らげそうな呼吸を一旦落ち着かせて、明ちゃんの方へと居直った。
「ありがとう……みっともないとこ見せてごめんなさいね。ちょっと1人じゃどうにもならない事があって……」
演技を続けながらも、私好みの柔軟剤の匂いがするハンカチに超興奮し、正直理性を保つのが大変だった。……まさかこんなトラップがあったなんて。
「大丈夫ですよ。僕なんかがおこがましいことを言いますが……泣くのは恥ずかしい事じゃないと思います。出来ればお客様の笑顔が見たいですが、どうか無理はしないでください」
「ありがとう。貴方ほんとに優しいわね」
そう言うと明ちゃんは複雑そうな顔をした。……この様子じゃ、普段から誰にでも優しいとか言われて、理不尽に女性から怒られるタイプなんでしょうね。心中察するわ。
「この時間は人も少ないですし、良かったらお話聞きますよ?」
作戦②までは意外とスムーズに進んだけど、閉店の時間も近いし、あまり迷惑はかけられない。今日はこのくらいにしようかしら。
「仕事の邪魔は出来ないし……お気持ちだけ頂くわ。本当にありがとう。」
「そうですか……いえいえ、いつでもお待ちしております。どうかお気をつけて。」
次に会う口実のため、しれっと明ちゃんのハンカチは回収。当の本人はもうすっかり忘れてしまっているのか、躊躇する素振りもなく店を後にする私に深々とお辞儀をした。
「……あの子、絶対私生活でもトンズラされるタイプね。優し過ぎるのも本当に考えものだわ。」
こうして会うのは7年ぶりだったけど、他人にも優しくできる所は学生時代から何も変わっておらず、内心ホッとした。黒ちゃんの話だと、黒ちゃんの事は睨んで拒絶した様だけど、とてもそんなことをするような子には思えなかった。……やっぱり黒ちゃん側の問題じゃないか、と初日で思ってしまった。
とりあえず今日得た情報としては、手に指輪ははめていなかったこと、持っていたハンカチのメーカーは特にブランド品でもなく、女性からプレゼントされた説は薄いということ。9割はオンナの勘だけど、パートナーが居る確率はそんなに高くないと読んだ。
流石に自宅までの追跡は犯罪臭がするため、今日のミッションはここまでとした。
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