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-黒澤side2-
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―――7年前。
黒澤温人、25歳。数学の教師を始めて3年目の春のことだ。業務にもずいぶん慣れ始めてきた俺は、とうとう副担任から担任になることが決まった。…だが。
「はぁ…黒澤先生。もう少し生徒達の担任になる自覚を持ってはくれんかね?」
校長先生は俺の服装を上から下まで舐め回すように見て、いつものようにため息をついた。
「えーっ…いたって普通ですよ?」
「シャツのボタンを上から三つも開けて、何度注意しても無精髭を剃らない。あと、こんなにも酒とタバコの臭いを漂わせている新人は初めてだよ…全く。」
理事長もこんな人にたった二年で生徒を任せるなんてモノ好きだ、と呆れた顔で校長先生は朝礼の準備を始めた。
「それでも数学に関しては“天才”って言われてるんだから、罪なオトコよね~?んふふっ」
「ゲッ…白鳥先生。」
白衣を身に纏い、甘い香水の匂いを漂わせながら職員室に入ってきたのは、保健医の白鳥尚生(ナオ)先生。外見は、黒髪で如何にも王子様オーラを放つこの人だが…中身は女も男も食べちゃう魔性の女(自称)らしい。俗に言うバイセクシャルと言うやつだ。かくいう俺は、何故か就職早々この人に目をつけられて、随分と懐かれている…といったところだ。
「ゲッ!って何よー!担任おめでとう、クロちゃんっ。いいわぁ~初々しいクロちゃんも好きだったけど凛々しい感じのクロちゃんも素敵よ~っ。」
「その呼び方やめてもらえないっすかね…鳥肌立つんで…。」
「んふふっ釣れない男だぁい好きっ。追われるより追いたい派なのよア・タ・シっ。」
他の教員たちは、俺が入ってきてから白鳥先生の被害が軽減したと胸をなでおろしているが、こっちは本当にいい迷惑だ…。俺の身だしなみなんかよりも、この人を学校においている方がよっぽど教育に悪いと思うのは俺だけだろうか…。そんなことを考えていると、教員は全員集まり、校長先生は朝礼を始めた。
「えー、今年からは黒澤温人先生にクラスの担任として加わっていただきます。クラスはCクラスになります。副担任は藤岡征二郎先生です。一年間よろしくお願いします。」
よろしくお願いします、と頭を下げるとほかの先生は拍手をしてくれた。副担任の藤岡先生は、かの有名な画家でもある美術の先生…らしいが、あまり面識はなかったため小さく会釈だけした。
クラス表を渡され、Cクラスの教室に入ると、程よく騒がしい奴らが席を立ってウロウロしていた。…ま、定番だな。
「あー、席についてくれ。ホームルームを始めるぞ。」
そう少し大きめの声で言うと、逆らうことなく全員が席に座り、瞬時に静まり返った。…そうだよな、新人教師が早々から問題児ばっかのクラスに当たるわけねぇか、と何となくがっかりした。まぁ優等生に越したことはないが、ドラマみたいな展開を若干期待していた…というのは内緒だ。
理数系とはいえ、拳での喧嘩が大好きだった俺は、なんとなく賢すぎる奴らを見ていると息が詰まってしまう。…最近の奴らは反抗期がねぇから非行に走ってしまうんだと思う。やりてぇ事やってても、やらなきゃならねぇ事はきちんとケジメをつけてやる。それさえ守れてりゃ若いうちは何をやってもいいと俺は思ってる。
だから身だしなみについても注意をするつもりもないし、悪いことは一度失敗して学んでいくもんだと思っている。失敗できるのも若い時だけなのだ。
…そんな俺の古風なやり方に校長先生は大反対だが、その気持ちが生徒に伝わったのか、最初は静まり返っていた教室もぱっと明るくなって、初めての担任でありながらとても懐いてくれた。
「黒澤温人だ。みんなの好きに呼んでくれ。」
「じゃあ“ハルト先生”とか?」
「普通過ぎて面白くねぇ。“ハル公”とかどう?」
「白鳥先生みたいに“クロちゃん”でもいいんじゃねー?」
「馬鹿っ…それはやめてくれ頼む。思い出して鳥肌が立つ…。」
生徒達が口々に話しながら笑っている中で、頬杖をつきながら静かに一人で微笑んで話を聞いている男子が窓際の席に座っていた。そいつは長髪で一つに束ねており、華奢な身体からも何だか儚い雰囲気を漂わせていた。見た目からして大人しそうな奴だ。
「えーっと、玉置…であってるか?お前はなんて呼んでくれるんだ?」
まだ名前と顔が一致していないため、出席表と席を照らし合わせて、そいつも話の輪に入れてやろうと話しかけた。するとハッとした表情で顔を上げると、顔を赤らめてそっと口を開いた。
「おんちゃん先生…ですかね。」
そいつがそう言って笑うと、じゃあそれで決定だなーっとクラス中の奴らが笑った。
…自己満かもしれねぇが、クラスがひとつになっているような気がしてその時の俺は嬉しかった。ただ純粋に生徒と向き合えるこの時間が、何よりも好きだったのだ。
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