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-黒澤side3-
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それから俺は、クラス全員ときちんと向き合えるように全員分の交換ノートを作った。今どき、ここまで熱い高校教師なんて、漫画やドラマでしか見たことがないとみんなには笑われたが、自己主張の少ない生徒もいるため、そんな奴でも気軽に相談してもらえるような存在になりたかった。特に高校生はナイーブな時期だ。親にも言えないような相談だってあるし、特に高校3年生は受験のこともある。まぁ…親切押し付けがましいかも知んねぇし、自己満と言われればそれまでだが。
…その後は、交換ノートに数学の質問や進路相談など真面目なことを書いてくる奴もいれば、「先生彼女いんの?」とかどうでもいい質問をぶつけてくる奴もいた。担任になって業務も増え、一つ一つに答える余裕なんて無いはずなのに、何故かそのやりとりが楽しく感じ始めていた。
「なーんかクロちゃん最近嬉しそうね?仕事楽しい?」
「白鳥先生。はい、なんか柄にも無く生徒と関わる時間が楽しくて仕方ないです。」
「一見冷めたオトコなのかな~って思ってたけど、随分ココロは熱いのね。いいわぁ男らしいクロちゃん、すっごくそそる~。」
その言葉にギョッと顔を青くしていると、その蔑んだ目も大好きよとウインクをされた。…本当に駄目だ、この人。
すると、俺が見ていた交換ノートを一つ手に取り、興味津々に中身を見始めた。
「あらっ…玉置明くんってさ、藤岡先生のお気に入りの子じゃない?今年はあんたのクラスなのね。」
「お気に入り?」
「ええ。…うちは藤岡先生のおかげで美術部の部員数は国内トップなの。入賞する生徒も多いわ。そんな中でね、どういうわけか玉置くんだけは特別に藤岡先生の使っている教室で絵を書いてるの。なんでも才能溢れた生徒だから個別指導をしてるとか。教員の間では有名な話よー?」
何だか頼りなさそうなやつだったが、実際はそんなにも才能溢れた生徒だったのかと思わず感心してしまった。画家でもあるあの藤岡先生が認めるくらいだ。相当絵が上手いのだろう。
「でもなーんかあの子って儚げだし、個別指導って響き、やましく聞こえちゃうわよね~。藤岡先生って玉置くん以外部屋には入れさせないし、なんか勘ぐっちゃうわ…。」
「…そ、そうですか?俺はただ単に藤岡先生がとても絵に対して熱心なんじゃないかと思いますが…。」
まだまだ青いわね~オンナの勘は鋭いのよ?とため息をつきながら白鳥先生は呆れた顔をした。…あんたは男でしょうが、と言いたかったがその言葉はそっと飲み込んだ。
「白鳥先生!斎藤さんが転んだみたいで!保健室にきてもらえますか?」
職員室に入ってきた女子生徒の団体に振り向くと、白鳥先生は営業モードのキリッとした表情に変わって、少し低めの声で囁き始めた。
「大事な子羊ちゃんが怪我?あぁ大変だ。今すぐ俺が診てあげるからね?」
そう言って白鳥先生がウインクをすると、女子生徒達は見るからに目をハートにさせて保健室へゾロゾロと後を追っていった。…女子生徒に対しては男のスイッチが入るから、あの人は本当に怖い。
それにしても、玉置は多くを語らないし、少し独特な雰囲気がある。いつも微笑んでいるけど…いや、いつも微笑んでいるから、ミステリアスな雰囲気がある。それは彼が芸術肌だからだろうか。
一人でいることが多いため少々気になっている生徒ではあるが、いじめとかそういった類の話は全く出てこないし、むしろうちのクラスの奴らは玉置が綺麗過ぎて近づけないなどと言っていたため、特に問題視はしていなかった。本人も一人でいる方が気楽だと話していたし、藤岡先生のことも様子見で大丈夫だろう。
先程、白鳥先生に奪われた玉置の交換ノートをもう一度めくると、そこにはとても綺麗な字で一言だけ記されていた。
“おんちゃん先生、たばことお酒は程々にしてくださいね。”
字はその人の心を表す、とはよく言ったもんだ。俺はその下に、
“わかった。減らすよ、ありがとう。”
と丁寧に記した。
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