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-黒澤side15-
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次の日曜日、前回の展覧会で色々と学習した俺は、余所行きのスーツでビシッとキメて髪型も整えた。・・・こんなのヘタしたら就活以来かもしれない。
「あ~思い出しただけで胃が痛くなるな。」
それにしても、なんで興味もないおっさんのためにここまで身なりに気を配らんといかんのか・・・とやや苛立たしいが、これも玉置のためだ。今日は、とことん画家としての藤岡先生を追って、少しでも生態を知ろうと決心した。
学生の玉置とは違って、本物の画家様であるため、会場は当たり前だが美術館で行われている。看板にはでっかい文字で『藤岡画伯個展』と書かれている。こんなにも広い美術館で展示されるってだけでも凄いことなのに、個展ときたらもはやソロ歌手が武道館でライブをするようなもんだ。すげぇ人だとは聞いていたがここまでとは思っていなかったため、俺は入口で立ち尽くし唖然としてしまった。
そんな俺を不思議そうに見つめながら通り過ぎていく他の来館者にハッとなり、俺は深呼吸をして背筋を伸ばした。
「・・・落ち着くんだ、怯むな俺。とりあえず中に入ろう。」
整理券を受付の人に渡すと、「私語は謹んでいただきますよう、ご協力お願いします。」とにっこり微笑まれた。
・・・あぁもう。その笑顔さえも無言の圧力を感じる。だからこういうかったるい所は苦手なんだ。
一歩中に入ると、想像以上の人だかりで驚いた。やっぱり好きな人は好きなんだなぁと俄な俺は頭を掻きながら見て回っていたが、お世辞抜きでこの人の絵には惹き付けられるものがあった。
絵画の一つ一つに名前が付けられているが、どれも目には見えないものばかりだ。静寂、奇跡、永遠、夢・・・。芸術家独特の世界観だが、時間を忘れるほど魅せつけられてしまった。
全ての絵を見て回り、最後の絵に足を運ぶと、見覚えのある人影が目の前に見えた。・・・間違いない、あれは玉置だ。
パッと振り返り、向こうも俺の存在に気がついたようで、一瞬何でいるんだ?といった驚愕の表情をして俺の方に早足で近づいてきた。
「おんちゃん先生・・・!どうしてここに!」
「しーっ。私語は厳禁、だろ?」
ひそひそ話をしながら玉置の唇に人差し指を当てると、ハッと視線をそらして出口の方を指さした。
二人で一度館内から出ると、しばらく無言の時間が続いたが、気まずい空気に耐えられなくなったのか、玉置はいつもの困った笑顔で話し始めた。
「まさかおんちゃん先生が藤岡先生の絵を見に来ているなんて・・・びっくりしました!」
「このナリで美術鑑賞とか似合わねぇけど、お前の絵見てからちょっと興味を持ち始めててな。・・・絶対この雰囲気に耐えらんないと思って来たが、まぁ驚いた。こんなにも引き込まれるなんてな~流石プロだな。」
「・・・藤岡先生に直接感想を言えば、とても喜んで下さると思います。」
相変わらず目を合わせて話してくれないが、心做しか嬉しそうに微笑んで、普通に返事をしてくれた。
「こんな事言ったらわかってねーなって言われそうだけど、なんとなーくやっぱり玉置の絵と雰囲気が似てたな。藤岡先生から教わってるってのが納得できた。」
「・・・やっぱり、そう思いますか?」
「いやっ・・・ほんのちょっとだぞ?その人の個性は絶対あると思うんだが・・・素人だからよ、なんとなく空気感とかが似てる気がしたんだ。気を悪くしたらすまない。」
「いえ!僕が尊敬している先生なのは間違いないですから、自然と空気感も似てきてしまっているのかもしれませんね。」
普通なら憧れの人に似ていると言われて嫌な気になるやつはいないと思うが、玉置はそれどころか、今にも泣きそうな顔で視線を落としてしまった。
・・・まさか。
「深読みだったらすまん。・・・もしかして、本当に描きたい絵を描かせてもらえてないんじゃないのか?」
「え・・・なんで、ですか。」
「お前、前の展覧会のとき、ガキに“とにかく描きたい絵を描け”って教えてただろ?・・・ずっと、あれが妙に引っかかっててな。絵に対して藤岡先生が過干渉なんじゃねぇかって思ったんだよ。」
「それは・・・。」
玉置がなにか言おうとしたそのとき、背後から足音が聞こえて同時に振り返った。
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