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-黒澤side16-
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「・・・おや、黒澤先生。」
「あっ・・・藤岡先生・・・。」
その足音が藤岡先生だと気づくやいなや、玉置は引き寄せられるように藤岡先生の元へと駆け寄った。行動とは裏腹に表情は強ばっていて、明らかにおかしい。
「玉置くんがここにいるのはわかるが、君は・・・何の用かね?」
穏やかな声でそう問いかけてくるものの、目は全く笑っておらず、寧ろ俺の行動を不審そうに探っている様子だ。その言い草に腹が立って、こちらも負けまいと喧嘩腰で返答してやった。
「・・・場違いなやつかも知れませんが、これでも絵を見たくて来たんですよ。俄が絵に興味を持って悪いですか。」
「いや、大いに嬉しいよ。ほかの教員は私の絵に全くもって無関心だからね。君が初めてだよ。」
「それはそれは光栄です。」
目の前でバチバチと火花を散らしていると、玉置は心底困った様子でアワアワとしていた。・・・いかん、こいつのためにここまで来たというのに困らせてどうする。ここは大人の対応をしなければ。
「もうすぐ私の講演会がある。玉置くんの席を取っておいたから探していたんだよ。・・・さぁ、玉置くん行こうか。良かったら黒澤先生もどうだね?」
「・・・是非とも聞かせてください。」
一瞬キッと俺の方を睨んで藤岡先生は会場の方へと向き直った。
藤岡先生に気づかれないようにそっと玉置の手を引くと、相変わらず顔色が悪く今にも泣きそうな顔をしていた。
「玉置・・・さっきの質問の答え、待っているから。藤岡先生には絶対言わない。だから我慢するなよ?」
「おんちゃん・・・先生・・・。」
こそっと耳打ちをすると、玉置は少し目を泳がせて、何も言わずに藤岡先生の横へと駆け寄っていった。
何でもない、と否定し続けてきた玉置が今日は何も言わなかった。・・・あともう少し、もう少し探りを入れれば玉置の口から真実を聞くことが出来るかもしれない。
後を追って公演会場に入ると、殆どの席が埋まっており、ローカル放送のカメラまで入っていた。どうやら今まで描いてきた絵画の話だけでなく、次作についての話も聞けるらしい。俺は一番後の空いている席に腰掛け、先に入った玉置の姿を探した。・・・どうやら最前席にいるらしい。
「次の絵のテーマは“太陽と月”です。今までは抽象的なテーマが多かったですが、今回は敢えて実在するものをどれだけ私の世界観で表現できるかを試したいと思っております。」
会場からは大きな拍手が贈られ、俺も周りに合わせて拍手をした。・・・一瞬、藤岡先生は俺の方を見て目を細めたような気がしたが、すぐに舞台袖へとはけて行き、いつの間にか玉置も共に会場から姿を消していた。
根本を知ることは出来なかったが、玉置が自身の作品に満足していないこと、藤岡先生から逃れられないなにかがあるという事は確信した。それだけでも今日は収穫があった方だ。
作品の一つ一つは本当に素晴らしいものだったが、玉置には自由に絵を描かせてやりたい。ただそればかりを考えながら、自宅に戻ってからも俺は藤岡先生について山ほど調べ上げ、夜を明かしたのであった。
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