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-黒澤side21-
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「ああ……駄目だ……疲れた……。」
補講は、普段受け持たない他のクラスの生徒も混同で行う。いい経験にはなったが……受験前にまだ授業中に居眠りする奴がいるなんて。さすがの俺も呆れた。自分のクラスが優秀すぎてすっかり忘れていたが、こんな奴の方が多いのが現実だ。夏休みは始まったところだが、もう既に心が折れそうになっている。
だが、夢だったチョーク投げが生徒の額に命中した時は、なんだかちょっと感動してしまった。
「やっぱ喝を入れてこそ教師って感じだよな……。あー、けど叫びまくってあっちぃ……。」
職員室には誰もおらず、冷房は省エネモードにされていたため、温度を下げることにした。各教室の温度調節は職員室で管理されているため、校長が見ていないところでないとなかなか触れないのだ。
「…あれ、そういや藤岡先生の部屋今日はクーラーついてねぇな?玉置は来てないのか?」
集中管理のボタンを見ると、藤岡先生が使っている部屋は冷房がついていないと表示されている。…が、鍵棚には美術室の鍵がかかっていない。
まさかこんな暑い中で絵を描いているのでは。心配になって藤岡先生の部屋の前まで行くと、案の定電気がついているようだった。
「玉置!玉置ー!!いるのか?おーい!冷房がついてないみたいだが…大丈夫かー?」
ノックをしながら大声で中に声をかけるが、声どころか物音一つしない。妙な胸騒ぎがして、俺は何度も大きくドアを叩いた。
「おい…これ…やばいんじゃねぇか?」
ドアに大きく書かれた“立ち入り禁止”の貼り紙が目に止まるが、今はそんなことを言ってられない。…玉置の安否確認くらいならいいだろう。後で叱られるのが目に見えているが、俺は恐る恐るドアに手をかけた。…よし、鍵は開いてる。
「玉置?…すまない、返事がないから入るぞ。」
中に1歩入ると、部屋にこもった熱で一瞬ウッと息が止まりそうになった。もしこんな中で絵を描いていたら……自然と俺の足は速くなっていて、一番奥のドアを強く開いた。
「……たま、き?……っ玉置!?!?!」
俺の嫌な予感は的中してしまった。玉置は床でぐったりと倒れており、息が荒い。
「玉置!!!おい!!わかるか!?玉置!!!!」
「……っ……はぁ、おん、ちゃ……せ……ん……せ」
なんとか意識はあるものの、目の焦点は合っておらず、かなり危険な状態のため急いで携帯から救急車を呼んだ。
「玉置!玉置……ごめんな、なんで気づいてやれなかったんだ。畜生……っ。」
「……っはぁ……はぁ。」
……ネクタイを緩め、シャツのボタンを外すが、暑い部屋の中で玉置は段々と息が荒くなっていく。……少しでも応急処置をしなければ。
「……そうだ、白鳥先生。……頼む、もう少し耐えてくれよっ。」
保健室へと運ぼうと玉置をおぶったその時、玉置の描きかけの絵を見て、俺は唖然とした。
美しく描かれた、“太陽と月”の絵。
……これって。藤岡先生が個展で出すと言っていた絵じゃないのか?
「っこれは後だ。玉置……しっかりしろ……玉置……。」
力の入らない玉置をおぶって保健室へと駆け込むと、白鳥先生は目を見開いて椅子から立ち上がった。
「あ、明ちゃん!?!?」
「すんません!こいつ部屋で倒れてて、救急車呼びました!…応急処置お願いします!!」
「わかった……っ、酷い熱だわ。明ちゃん?明ちゃん聞こえる?聞こえたら瞬きして!」
ぼんやりと宙を見つめる玉置の瞼は、ゆっくりと閉じ始めていた。白鳥先生は手早く脇の下や首周り、股の間に袋に入った氷水でアイシングをしながら、顎を挙げて気道確保を始めた。
「白鳥先生!……っ、水は?!」
「駄目。今、経口摂取は危険よ。……明ちゃん、もう少しよ……。」
程なくして救急車が来て、俺と白鳥先生は同行した。完全に意識がない絵の具まみれの玉置の手を強く握って、何度も何度も祈った。
「玉置……玉置……頼む……助けてやってくれ。」
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