アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
-黒澤side24-
-
休日出勤の如く、私服で学校へ行くと、生徒の保護者だと思われる人達が校長に向かって怒鳴りつけているのが見えた。生徒に熱中症が出て救急搬送された事がもう知れ渡っているらしい。
話によると、ローカルニュースでは“ 意識不明の重体”と報道されていた事もあり、思っていたよりおおごとになってしまったらしい。
幸い対応が早かったと判断された俺と白鳥先生は多くを問い詰められる事はなく、どちらかというと校長への集中非難だった。
…心が痛むが、空調設備や部活時の見守りはどうなっているのかとキーキー喚く人達を避けて藤岡先生の部屋に向かったが、“ 立ち入り禁止”の貼り紙は剥がされており、中には冷房機器の修理会社の人が何人も部屋に入っていた。
…修理屋に加えて真相を問い詰める保護者にまみれる校内。当分この部屋は立ち入り自由になるだろう。そう考えていると、後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「…黒澤先生。」
「藤岡先生。…ちょうど良かった。貴方と2人きりで話したくて今日は来ました。ここじゃあれなんで、放送室でも。」
「…生徒指導室じゃいけない理由が何か?」
「玉置の第一発見者は俺で、あんたの次の作品のテーマを知っているのも俺。…これで言いたい事はわかりますか?…放送室は防音で夏休みの間は使用してないでしょう。これでもアンタに気をつかってやってるんですが?」
腹立たしさからつい口調がキツくなるが、藤岡先生はそれに対し表情ひとつ変えず黙って放送室へと入った。
「…これだけの騒ぎでご存知かとは思いますが、玉置は今入院してます。あなたのせいで。」
「私があの部屋に玉置くんを閉じ込めていた、とでも言いたいのか?…悪いが昨日は部活自体休みの日だったはずだ。彼が勝手に私の不在中に私の部屋を使い、熱中症になった。彼の体調管理の問題だろう。」
身勝手な言い分にとうとう俺の理性がぷちんと切れる音がした。バッと胸ぐらを掴んで壁に押し付けると、さすがの藤岡先生も目を見開いた。
「てめぇ…玉置がどんな思いであんたの右腕やってきたかわかってんのか?…その気持ち踏みにじった上に見舞いや謝罪の一つもない。もう少し遅かったらあいつ死んでたかもしれねぇんだぞ。…玉置に止められたからしねぇけど、今までの俺だったら即アンタのこと病院送りにしてたよ。」
胸ぐらを掴んだ手をバッと離すと、息を荒らげながらよろめいた。
「…そ、そんなことをしたら教師なんて続けられないぞ。それに私は有名な画家だ。ただの新人教師の君が、藤岡は生徒に絵を書かせていたなどと言ってもどうせ法螺吹きだと軽く流されるだけだ。第一、君の目撃証言だけで証拠がないんだからな。」
「そうですね。…でもアンタはたった今自分で言いましたよね?生徒に絵を描かせていると。」
「ふん。どうせお利口な君のことだ。録音か何かしているのだろう?…無駄だよ。ゴシップなんてもんは金でいくらでも消せる時代だ。おそらく玉置くんはもう君が盾となり私に返してくれないだろう。有能な右腕を失ったのは残念だが…あれだけ絵ができていれば少し手直しをするくらいで出展は出来る。…くっくっ、君たちの負けだよ。」
とち狂ったように藤岡先生は一頻り笑うと、それに動じない俺を不思議そうに見て、藤岡先生は俺に顔を近づけた。
「どうした??図星か??作戦が見抜かれて動揺しているのかね?」
「…さぁ?それはどうでしょうね?藤岡大先生。動揺するのはアンタじゃないですか?」
後ろ手に隠していたマイクと“ 放送中”と光る放送表示灯を見せつけると、不気味な笑顔がたちまち消え、藤岡先生の顔は一瞬で青ざめた。
「藤岡先生!?今の校内放送はどういうことですか!?」
「生徒に描かせた!?どういうことですか!?説明してください!!」
「今までの絵はあなたの絵じゃなかったんです!?!?ちゃんと説明してください!!」
一気に放送室へと押しかけた保護者や教員、汗だくの校長が藤岡先生に飛びかかる。…本人の口からこれだけ知れ渡ってしまったんだ。もう弁解の余地はないだろう。
「…くっ…くそっ。」
「残念ですが負けはあなたですよ、藤岡先生。もう後戻りできない。公共の場でちゃんと保護者や生徒、あなたのファンに説明し、謝罪してください。…健気にアンタを支えてきた玉置にも。」
…頭を両手で抱えたままその場にしゃがみこむと、藤岡先生はもうそれ以上何も言わなかった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
24 / 37