アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
-黒澤side26-
-
「しつれいします……あのっ、たまきせんせーがにゅういんしてるってうわさできいて!ごめんなさい、しんぱいで…きてしまいました。」
ドアを開くと、見下げるほどちいせぇガキが俺達を見上げていた。気弱そうな子は俺に怯えているのか、もうひとりのガキの裾をギュッと摘んでいる。こいつら、見覚えあるな。
……ああいかんいかん、ガキ相手に。怖がらせないように、俺は精一杯微笑んだ。
「先生だなんてそんなっ。君たちは…確か展覧会のときの!わざわざ来てくれたんだね。ありがとう。」
「おれはきょーみねぇけど、ねっちゅーしょー?ってしぬかもしんねぇやばいのってかあちゃんいってたから、おれもきてやった。」
ほらよ、と生意気なガキが差し出したのは、道端で摘んだ花らしきものを折り紙で包んだ、小さい小さい花束だった。玉置は心の底から嬉しそうに微笑んで、2人の頭を撫でた。
「えのことニュースでみて、すぐにたまきせんせーのことだってわかりました。まえに、ほんとうにかきたいえをかくんだよっていわれたこと、おもいだして…。」
「…僕、そんなこと言ったかな。なんだか恥ずかしいね。」
照れ隠しをするように頭を描くと、玉置はいつになく真剣な表情になり、ガキの視線に合わせてしゃがんだ。
「きっと、心のどこかでずっとその事が引っかかってて、自分に言い聞かせてたのかもしれないよ。……僕は、うまく気持ちを伝えられない分、絵で表現してきた。でもそれは、藤岡先生の右腕としてだったんだ。……これからは玉置明の絵を描いていくよ。」
あまりに真っ直ぐな眼差しに、ガキは2人とも息を飲んで玉置の方を見ていた。
……こいつの目に、もう迷いはない。
「みずきくん、かな?いつか君の絵と並んで展覧されるのを楽しみにしているよ。」
「……!たまきせんせい!!」
「ふーん。なんかよくわかんねーけど、よかったな、みずき。」
「ありがとう!りょうちゃん!」
俺は寸止め状態で良くねぇよ、と思いながらも純粋なガキどもと玉置の目を見ていると、心が温かくなった。
ーーそうして玉置は無事退院し、目指していた美大に合格。今までの事が嘘のように、トントン拍子で事が進んでいった。……そして。
『卒業したら…僕と、付き合ってください。』
俺らの恋も、急展開。勿論、俺に断る理由などなく、すぐに首を縦に振った。
身分上すぐには付き合えないこともわかっていたため、今まで通り節度を保った、あくまで“生徒”と“先生”の関係を崩さず、卒業を迎えた。
「明、卒業おめでとう。」
「……今まで、本当にありがとうございました。感謝してもしきれないくらいです。」
「……っふ、何最後のお別れみたいに言ってんだよ。やっと卒業させてやれたんだ。俺たちはこれからいくらでも……。」
「先生?僕は、先生のことが本当に…本当に大好きでした。……けど、あの日の約束は忘れてください。ごめんなさい……どうか、お元気で。」
「……は??何言って……。」
「さようなら……先生。」
ーーそして俺の失恋も、急展開だった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
26 / 37