アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
相談
-
ひとしきり晴くんの胸の中で泣いて落ち着いたころには、僕は晴くんに相談する覚悟ができていた。
「あのね…」
「おう」
晴くんの胸に顔を押しつけたまま震える声で切り出すと、返ってきたのはどこまでも優しい声。
ああ、僕、晴くんの声好きだなあ。
なーんて、思ってしまう。
「奏…じゃなくて、お兄ちゃんに言われたんだ。
私は、忘れたいことだけ都合良く忘れるって。
今回起きたこなとを覚えてないのもそれが原因なんだ、って」
「…あぁ」
「それでね、お兄ちゃんが言うには、今回も含めて私が私のために思い出さなきゃいけない記憶が3つあるらしいんだ」
「…3つ?
2つじゃなくてか?」
「…?うん。3つって言ってたよ」
「……話を遮って悪い、続けてくれ」
「大丈夫だよ。
でもね、その全てが、私にとって辛い記憶なんだよ。だから忘れたんだし。
…それで、お兄ちゃんに、『思い出したいと思ってくれる?』って聞かれたんだ。
……僕は、答えられなかった」
そこでふぅ、と一度息を吐き出す。
晴くんは僕がまた話し出すのを急かすことなく待ってくれていて、どこまで優しい人なんだろうと思った。
「…考えちゃうんだ。
そんな辛いことを思い出して、何の意味があるんだろうって。
わざわざ自分の嫌なことを思い出す必要があるのかなって」
きみはどう思う?と問いかけると、晴くんはしばしの間思考を巡らせ、口を開く。
…しかし、僕に賛同とまでは行かなくても共感してくれるだろうという予想は大きく裏切られた。
「…それは、おまえの悪いところだ」
「…ぇ、」
「マイナス思考なところもあるんだな。
…あいつはおまえに、『自分のために思い出さなきゃいけない』って言ったんだろう?
つまりあいつは、思い出すことがおまえのためになるって信じてる。
あいつはおまえが強くなれるって信じてるんだから、おまえもあいつを信じてやれ」
「…ぁ、」
確かに、と思いながら、続く晴くんの話に耳を傾ける。
「それに、辛い記憶だとか言っても、それを思い出せるようになるってことは乗り越えられるようになってるってことだ。
おまえなら、大丈夫」
その言葉をゆっくりと噛みしめると、身に沁みた。
でも。
「でも、でも…っ!怖いんだ!!
どうしようもなく、怖いんだよ!!」
泣き叫ぶと、その恐怖を包み込むようにまた優しく抱きしめられた。
「おまえが1人で耐えられないのなら、俺が隣にいてやる。
おまえが望むのなら、いつまでも。
実はな…、俺も、おまえを守れるくらい強くなりたいんだ」
「え、」
今度はしっかりと目を合わせて告げられる。
「おまえの力になりたい…だから強くなりたい。
でも、1人じゃ挫けそうだ…そう、おまえがいないと。
俺のモチベーションはおまえだ。
おまえのために頑張る。
おまえも、俺のために頑張ってくれないか…?」
僕にちゃんとお説教してくれる。
僕を優しく励ましてくれる。
ちゃんと僕のことを考えてくれる。
僕のことを大切に思ってくれる…。
晴くんの行動一つ一つに、あんなに心臓が騒いだ理由がわかった。
きっと僕は、晴くんが。
好き、なんだ。
「…喜んで」
僕は、晴くんとなら強くなれる。
そう思った。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
91 / 104