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新たな仕事
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高校1年の春。
ぶらぶらと街を歩いているときにスカウトされた、モデル。
興味本位と小遣い稼ぎ目的に、その世界に飛び込んだ。
日に日に雑誌に載る回数が増え、校内でもファンクラブが出来るほど人気が出てきた。
遊びもほどほどに高校3年間を過ごし、卒業後の進路は迷いはしたもののモデルという職業に魅力を感じた俺は、卒業を機に本格的にモデル活動を始めた。
モデルの仕事を始めて6年目。
モデルだけではなく、映画やドラマなど俳優としての仕事も舞い込みだした。
そして新たに舞い込んだ仕事。
それは、映画の主役に大抜擢という、今までで一番大きい仕事だった。
だんだん、¨演じる¨ということに魅力を感じてきた俺は、めちゃくちゃ喜んだ。
だけどマネージャーから続いて言われた内容に、固まる。
「…へ?歌う?…俺が?」
そう。映画の主題歌をこの俺が歌うという。
そんな初めてのオファーに戸惑いつつも、歌うことは絶対条件らしく…俺は首を縦に振ったんだけど。
「これはお前の名前と人気を一躍アップさせる仕事だぞ!頑張れよ、篤!」
興奮気味にまくしたてる、俺が所属する事務所の社長。
社長だけではなく、他の社員もマネージャーも、どこか興奮気味。
それには理由がある。
俺の出演が決まった映画の主題歌を、かの有名な作詞作曲家、¨KANADE¨が担当するから。
¨KANADE¨。
この人が作った歌は、CD購入者が激減した世の中にも関わらず必ずミリオンセラーを達成し、アーティストから絶大なる支持がある。
海外アーティストからも熱烈なオファーがあるらしい。
¨KAMADE¨のプロフィールは一切不明。
年齢はおろか、性別すら知らされていない。
歌手なんて縁遠かった俺でさえ知っている、超有名人。
そんな人が作る歌を、俺が歌う?
喜びよりも不安が強い。
歌なんて仲間でカラオケで歌う程度。
本格的にやったことなんて一度もない。
「なんだ?浮かない顔だな」
どうやら不安が顔に出ていたらしい。
素直に思っていた事を話すと、社長はニヤリと笑った。
そして、思いもよらない言葉を発する。
「お前を指名してきたのは¨KANADE¨だ。だから胸を張って歌え」
自分が運転する帰りの車の中。
社長が言った言葉がぐるぐる回る。
¨KANADE¨が、俺を?
面識はおろか、話したことも、関わりをもったこともない。
一体、どうなってんだろ…。
そう考えながら、朝から寄るつもりをしていた大型書籍店の駐車場へ車を入れる。
考えても答えは出ない。今は置いておこう。
エンジンを切り外に出ると、5月にしては熱い日差しに目を細める。
店内に入り、目的の場所へ一目散に向かった。
「あ、あった」
中学の時から好きだった作家の新刊。
シリーズ物の4作目。
待ち望んだ本に、思わず笑みが浮かぶ。
そこでふと思いつき、音楽関連のコーナーを覗いてみることにした。
歌う上で、何か参考に出来るような本があるかもだし。
案内板をたどり、角を曲がると音楽関連のコーナー。
そこで俺の目に、棚の上の本を取るのに苦労している人が映った。
近づきその人の指先が触れている本を取り、渡してあげようと下を向く。
う…わ。
俺はそこで、俺を見上げるその人物を目にして…固まった。
肩先まである、ハニーブラウンの明るい髪。
肌は透き通るように白く、何よりも目を奪うのは、瞳。
左右色が違う。右は金、左は銀。
なんて言うんだっけ………あ、オッドアイか。
クリクリっとした両目が、俺を見上げていた。
すっげ、美少女…。
と、感心していると、耳に届く声にハッと我に返る。
「ソレ。取ってくれたんじゃねーの?」
「…え?」
聞こえた声は、女の子にしては低い…アルトな声。
「ソレ。なに?違うわけ?俺が取ろうとしたの分かった上で横取りすんのか?」
本を持つ俺の手を指差す。
「へ?…あ、違っ。…どうぞ」
…俺?今俺って言った?
「さーんきゅ。あ、ついでにアレも取ってくんない?」
隣の棚の上にある本を指差しながら、俺を見上げてきた。その笑顔にちょっとドキッとしながら、まぁついでなので手を伸ばす。
「その茶色いやつ」
「はい、どうぞ」
「さんきゅーな。じゃ」
片手を上げてくるっと背中を向け歩いて行った。
改めて見ると、ブラックの細身のジーンズに、青が基本のチェックのシャツ。
…美少女じゃなく、美少年だったんだ…。
それにしてもインパクトのある容姿だったなぁ。
外人さんかな?日本語ペラペラだったけど…。
そんなことを考えながら、キョロキョロと音楽関連の本を眺める。
が、何を見たらいいのか結局分からず、手に持つ本だけを購入するためにレジに向かった。
レジに並ぶと、お客さん二人を挟んでさっきの美少年がいた。
「お会計は、50,850円です」
高っ!一体何冊買ったんだろ…。ってゆーか少年にそんな額払えんの?
「1回で」
財布から取り出したのは、どうやらクレジットカードらしい。
未成年でしょ?親のカード?
店員さん、困るだろうなぁ…と思いきや、アッサリとカードを受け取り処理を済ませていく。
「いつもありがとうございます」
「また来るねー」
なんて会話を交わし、手提げ袋3つ分の本を受け取り店を出て行った。
「次のお客様、お待たせいたしました」
「…あぁ、はい」
本を渡し、会計を済ませる。
袋を受け取り駐車場に向かうと、声が聞こえた。
「あぁっ?呼び出されただと?」
それは、さっきの美少年。
「んなもん無視しとけ!は?んじゃどうすんだよ。俺に電車使って帰れってか!このクッソ重てぇ本持って!」
…案外口悪いな。
「こんっのバカ遠!後で覚えてろよ!」
携帯を荒々しくポケットにしまったところで、俺は美少年の横を通り過ぎた。
「なぁっ、おいっ──…」
「ま、食えば?」
「…いただきます」
俺は今、何故か先程の美少年とご飯を一緒に食べてる。
なぜかと言うと。
通り過ぎたあと後ろから声をかけられ、振り向いた。
美少年は近づいてくると、俺の服の裾をつかみ、首を傾げ、ニッコリ笑ってきた。
「ねぇ、送ってくんない?」
……うん、と頷く俺がいた。
今日は午前で仕事が終わり、事務所へ寄った後は午後からはオフだった。
なので、読書をしようと本屋へ行ったんだけど。
何でこんなことに…?
手作りと思われる、スパゲティーのナポリタンを食べる。
あ、うまい。
俺は向かい側に座り、ナポリタンを食べる美少年をチラッと見る。
見れば見るほど整った顔してるなぁ。
俺の視線に気づいたのか、何?と聞いてきた。
「あ、いや、うまいよ」
「そ?そりゃ良かった」
道案内され送ってきたこの家。まずそのでかさに驚いた。
都心を少し離れただけで緑豊かな敷地が広がっており、そこに建てられてあるこの家。
ガーデンと言った方がしっくりくる庭、裏手には林が広がっていて癒される空間。
食事も終わりテーブルからリビングのソファに移動して、出されたコーヒーを飲む。
「いやぁ、助かった。あんなけの荷物持ってどうしようかと思ったぜ。さんきゅーな」
「…いや、べつに」
「いやいや、マジ。あそこで偶然日野くんに会えてよかったよ」
「まぁ、大変そうだった…し…え?あれ…?俺、名前言ったっけ…?」
俺の名前は、日野篤。
だけどプロフィールは、¨ATSUSHI¨ってなってる。
本名は明かしていないんだけど…。
もし、この美少年がモデルの俺を知っていたとしても、俺の苗字を知っているはずがない。
「ん?あぁ。そりゃ自分の商品のことだからな。葵に聞いた」
「へ?葵?」
「一色葵(イッシキアオイ)。お前の事務所の社長」
確かにその名前は、おれの事務所の社長。
わずか30歳の若さで代表にのしあがり、やり手と噂の社長。
本人がタレントをやった方がいいんじゃないかと思うほどの、甘いマスクと美声の持ち主。
その社長を呼び捨て?…ってゆか、商品?
疑問が顔に出ていたのか、美少年は俺にニッコリ笑って自己紹介した。
「今度お前に楽曲を提供する¨KANADE¨こと、町田奏(マチダソウ)だ。よろしくな」
ーーーーーー。
「…………えぇぇぇっ?!!」
俺はこの日、生きてきた中で一番の衝撃を受けた。
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